Feb 08, 2017 interview

小日向文世と矢口監督が過酷なサバイバルロケの裏側を語る

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矢口監督が「鬼」に思えた瞬間とは?

 

──矢口監督はきっちりした絵コンテを描くことでも知られていますが、今まで以上にドキュメンタリー要素が強い本作も絵コンテは用意したんでしょうか?

矢口 はい、そこはいつも通りです。でも用意した絵コンテは役者さんには見せることはないんです。

小日向 今回、1回だけ絵コンテをみせてもらいました。川を渡るシーン。あのときは危険が伴うシーンだったので、事前に絵コンテを見せてもらい、監督がどんな絵を求めているのかを知った上で撮影したんです。川を渡るシーンは、ほんとうに大変でした。忘れもしません、2015年の11月29日! 川の水がとても冷たくて、その中を顔まで浸かりながら渡ったんですよ。衣装の下に見えないようにウェットスーツを着込んでいたんですが、首の隙間から冷水が流れ込んでくる。それで途中からウェットスーツの中にお湯を流し込んでもらって、お風呂に入っているみたいにして撮影を続けたんですよ。あのアイデアがなかったら、最後まで撮れなかった。僕以上に、半袖や短パンだった泉澤くんと葵わかなちゃんはもっと大変だったと思うけど。

──作品が完成した今だから笑って振り返ることができますが、撮影現場にいた矢口監督は……。

小日向 鬼に見えました。温厚な性格の僕でも、「くそ!」と思ったことが1〜2回はありましたね。『サバイバルファミリー』は夏という設定だから、映像からは川を渡るシーンも寒そうに見えなかったと思うんですが、川の中は本当に冷たかった。しかも、矢口監督は息が白くならないように、僕たちに氷をくわえさせようと考えていたんです。あのときは「この人は鬼だ」と思った。

矢口 僕も撮影前に川に入ったんです。ちょっとだけ手を川に浸けたら、痛くなるほど冷たかった。「あっ、僕には無理だ。でも俳優さんならできるはず」と、あえて僕は心を鬼にしたんです。僕も辛かったですよ(笑)。

 

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小日向 あぁ、思い出した! 雨の中で僕がお腹を壊して叢にしゃがみ込むシーンも、矢口監督なかなかOKしてくれなくて辛かった。雨で全身グシャグシャ状態なのに、「ズボンを脱ぎながらしゃがみ込んでください」と撮り直しさせられたんです。あれは僕のお尻を狙ったんでしょう。それこそ「クソ! やればいいんだろうッ」と思いながら、やった。

──矢口監督の作品は、毎回のように登場人物たちがお腹を壊すシーンや嘔吐するシーンが盛り込まれますね。

矢口 気づかれましたか(笑)。

小日向 今回は吐くシーンはあった?

矢口 葵わかなちゃんが口にしたネコ缶をもどすシーンがあるんです。自分でもなぜ、嘔吐シーンを撮りたがるのか、よく分からないんですよ。ただ好きとしか言いようがない(笑)。

──矢口監督作はCGを極力使わない、俳優の身体性にこだわった作品ばかりだと言えそうですね。

矢口 世の中が便利になればなるほど、デジタル化が進むほど、映画で見たいものは反対の方向にいく気がします。当たり前のことですけど、観客は本当のことのように感じるからこそ感動するんだと思います。

 

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──2カ月半におよぶロケ撮影で、小日向さん、矢口監督が得たものはなんでしょうか?

小日向 いろいろあったけど、僕にとっては虫に触れるようになったことが大きかったですね。僕は虫なんか生涯触れることなく過ごすと思っていたので。実際に芋虫に触れることで、「どんな生き物も神様が作った愛しい存在なんだな」と優しく感じられるようになりましたね。

矢口 僕は、これまで映画製作の中で撮影に対して苦手意識があったんです。脚本の執筆や編集はじっくり時間を掛けて納得できるまでやれる文化系の作業だけど、撮影だけは短期間で集中してやらないといけない体育界系の作業。いまだに「撮影さえなければいいのに」と思ってしまうほどだったんです。

小日向 へぇ、そうだったんですか? 全然気が付かなかった。

矢口 今回は2カ月半とかなり長い撮影期間で、しかも日本各地を移動しながらだから心配だったのですが、「撮影、ちょっと楽しいな」と思えるようになりました。まだ「撮影、大好き」にはなれませんけど(笑)。

小日向 2カ月半ずっとセットでの撮影だったら、しんどかったかもね。

矢口 セットでの撮影は『ハッピーフライト』で経験しましたが、僕にはあまり向いてないかもしれませんね。セットだと天候も時間も気にせず、スムーズに撮影は進むけど、どこか楽しさが感じられないんですよね。

小日向 それは分かるような気がする。

矢口 本物の太陽が照っていて、本物の風が吹いて、そこに本物の川が流れていると、やっぱりいいんですよね。だから高速道路も本物(笑)。「なんで交通規制なんかしてるんだよ!」と怒鳴られたりもするけど、やっぱり本物の景色の中で撮影した映像が好きなんです。

小日向 今回、引き絵がどれもいい感じで撮れていますよね。たまに遠くのほうに車が走っていたりするんだけど、矢口監督は車が見えなくなるまで待つんですよ。CGで後から消すことも可能だったのに。

矢口 大阪の通天閣のシーンは人がいない早朝を狙ったんです。でも、撮影を始めたら、ぞろぞろお店から人が出てきた。朝まで飲んでたから、もうグデングデンい(笑)。

小日向 酔っぱらった人たちが騒いだり大変でしたね。でも、そういう予測できないことも含めて、ロケ撮影は楽しさがあるんですよね。