Mar 06, 2019 interview

『スパイダーバース』日本人CGアニメーター・若杉遼に聞く、ハリウッドCG制作の舞台裏

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今までにない試行錯誤が必要な作品だった

 

──完成した『スパイダーマン:スパイダーバース』をご覧になっていかがでしたか?

作っている最中は、「この映像だと、90分間お客さんが観た時に疲れないかな?」と不安だったんです(笑)。でも完成した作品を観たら、そんな不安は吹き飛んでいました。ジェットコースターに乗ったみたいに、気付いたら90分経っていましたね。「あれ、もう終わり?」みたいな感じでした。テンポもすごく早くて個人的にも好みの映画でした。

──本作はすさまじい映像美が話題です。これまでの作品との違いや、今回ならではのチャレンジした部分は?

2Dアニメなどで、走っている時に足が何本も見えたり、パンチのスピードが速すぎて腕が2本に見えるような表現があると思います。今回は3DCG作品ですが、2Dっぽさを出すために、実際に腕を2本入れたりしているんですよ。

あと、モーションブラー(※)もそうですね。普段はコンピュータの計算で入れたりできるので、僕らがあまり気にしなくていい部分なんですが、今回はそういう残像の線などを手書きで入れないといけなかったんです。手間はかかりますが、今までにない試行錯誤が必要なことだったので面白かったですね。アニメーターからするとコマ送りして観たくなる映画ですので、ぜひ何回も観て、細かいところにも注目してほしいですね。
(※動いている対象をカメラで撮影した時に生じるぶれや残像)

 

 

──『スパイダーマン:スパイダーバース』は革新的な作品だと思います。今後の作品に与える影響は大きいと思いますか?

ディズニーやピクサーのアニメーションは、「大人が観ても面白い」と言われています。でもアニメって、いまだに“子どもが観るもの”と思っている方が結構いると思うんですよ。子どもにも分かりやすいものは当然必要だと思いますが、『スパイダーマン:スパイダーバース』ではスタイルも含めて、そこを変えたいですね。

ピクサーのブラッド・バード監督が「アニメはジャンルではなく、表現方法の一つ。アニメの中にもジャンルがある」とよく言っています。そういう意味でも『スパイダーマン:スパイダーバース』は、子どもには分からない大人のアニメがあってもいいということを提示して、世間の認識を広げることが出来る作品じゃないかなと思っています。

 

 

──若杉さんは現在CGアニメーターですが、今後一つの作品を手掛けたいというような気持ちはありますか?

監督はやってみたいですね。何もないところから作品を作り上げて、お客さんに自分の思いを伝えたり、自分の作ったものに感動していただいたり。共感できるものを作られるというのは、すごく楽しい仕事だと思います。全体を自分でコントロールできるポジションにいけたらなと思っています。

そのために、興味があることは何でもやるようにしています。例えば僕はCGアニメーターなので、普段の仕事で絵を描くことってないんです。ここ数年はずっと絵の練習をしていて、手描きのアニメーションも出来るくらいに技術を高められたら、ストーリーボードや絵コンテを自分で描けるようにもなりますし、作品にもっと関われるんじゃないかと思っています。