芝居の道具としてのスマホとタバコ
―― 今回、豊川さんが演じた菅原浩二が醸し出す〈やさぐれ感〉は絶妙だと感じましたが、工夫されたところは?
衣装に関しては、ほぼ三浦監督の好みですね。ものすごくこだわっていました。ちょうど日テレの「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」が終わったばかりで、髪の毛はそのままで、ひげも残して。
―― 裕一は、常にスマホを見るという芝居になっていますが、浩二はスマホではなく常にタバコを手にしています。
そうですね。シナリオに書かれているよりも本数を吸ってたかな? ここでタバコに火をつけるとかっていうところは、そのとおりやるんですけど、それ以外のところで、もう1本つけたりとか、消すタイミングなんかは自分のなかであったりしましたね。でもタバコを吸う役はすごく久しぶりだったので、芝居のリズムの作り方みたいなものが面白かった。最近でこそ少なくなりましたけど、喫煙シーンというのは、間をつくるのに、とても役に立ちます。スマホはまだよくわからないですけど。僕に関しては、タバコは芝居の道具として有効に使えていた時期がありましたね。
―― スマホはタバコのようにはいきませんか?
助監督さんが、スマホの画面を作ってくれていて、撮影のときは、タイミングを合わせて、スマホにピッと画面を出そうとしますが、実際はなかなか尺が合わなくて、カメラが回っているなかで見ても、全然違うものになっていたりする(笑)。でも、そこはそれとして芝居を続けるみたいなね。そういうこともありますが、これからの映画・ドラマでは、絶対避けて通れないツールだと思うので、またいろんなことが変わっていくだろうなとは思いますけどね。
―― 裕一が転がり込む浩二のアパートは、北海道で撮ったものですか?
実際の北海道のアパートです。狭いところでギュッギュッとやってました(笑)。あれを関東近郊の絵面があったようなところで撮るんじゃなくて、実際に北海道に行って撮るっていうのは、短いロケでしたけど、すごく効果があったと思いますよ。演じ手やスタッフの気持ちも違うし、何よりも映画に映るものが違うので。
逃げることも戦い方のひとつ
―― 完成した映画には、どんな感想を?
実はまだ観れていないです。観られるタイミングがきたときに観たいと思っています。
―― 観られるタイミングというのは?
他の役を演っていると、なかなか過去の仕事にもどるのが難しくて。オフの時間があると客観的に観ることができますが、今は違う人間が僕のなかに入りつつあるので、ちょっと邪魔してほしくないという気持ちがあります。
―― それは毎回ですか?
毎回そうなりますね。だから、自分の出た作品を、けっこう何年も経ってから観ることもあります。
―― それくらい時間が空くと、客観的に見られるのでは?
なりますね。間が空けば空くほど。内容もかなり忘れていたりするので、これ面白いな、って(笑)。
―― では、しばらくしてから『そして僕は途方に暮れる』の感想はうかがうとして、最後に、豊川さんからご覧になって、目の前から逃げることを繰り返す裕一の人生はどう映りましたか?
ただ我慢してそこに佇んでいるよりは、少なくとも“逃げる”という行動に出たわけだから、彼はやっぱり戦っているわけですよね。体と頭を使って逃げるというのも、ひとつの戦い方なんじゃないかなって気が僕はしましたね。
取材・構成 / 吉田伊知郎
撮影 / 岡本英理
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一は、長年同棲している恋人・里美と、些細なことで言い合いになり、話し合うことから逃げ、家を飛び出してしまう。その夜から、親友、大学時代の先輩や後輩、姉のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母が1人で暮らす苫小牧の実家へ戻る。だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけず、かつて家族から逃げていった父と10年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが‥‥。
脚本・監督:三浦大輔
原作:シアターコクーン「そして僕は途方に暮れる」(作・演出:三浦大輔)
出演:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平 / 香里奈、原田美枝子 / 豊川悦司
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
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