何度も繰り返し演じるためには、自分が飽きないこと
―― 三浦監督とは初めて組まれたわけですが、とても粘る演出をされる方として知られていますが、豊川さんの出演シーンはそうでもなかったですか?
いやいや、大変でしたね。大変っていう言い方が合っているかはわかりませんが。すごくこだわって作品を作る方だっていう話は最初から聞いていたので、どういう感じでやられるのかなと思っていました。衣装合わせで初めてお会いして、ちょっとお話したときに、これは噂通り一筋縄ではいかない監督さんだなという印象がありましたね。
―― 撮影現場では、その印象通りだったわけですか。
ええ、なかなかOKが出ない。でも、自分のなかで何をどう改良していけば良いのかなっていうことが、最初の頃はなかなかつかめなくて。それでテイクを繰り返すっていうことになってきて、そのうち段々嫌になってきて(笑)。
―― 豊川さんでも、そんな気分になりますか?
それで、もういいやと思いながら演ったらOKをもらって(笑)。井上陽水さんの「夢の中へ」の歌詞じゃないですけど、探すのをやめたときに、見つかることもよくあるっていう感じだったかな(笑)。
―― 色々なタイプの監督と組まれていると、三浦監督のようにテイクを重ねるタイプもいれば、俳優さんに完全に任せて、本番は1、2回でOKを出すタイプの監督もいますね。そうした監督ごとの傾向は、演技を準備する上で関係しますか?
とりあえずは自分のなかに何かないと、現場に立つことは難しい。もう、間違っていてもなんでもいいから、自分のイメージは現場に持ち込みます。ただ、それが監督に拾ってもらえるかどうかは別の話になってくるわけで。そういう意味で言うと、三浦監督は俳優任せにせず、割とこうであってほしい、ということを仰る監督さんでした。
―― かといって、型にはめすぎるタイプでもない監督のようですね。
とにかくテイクを重ねていくなかで、何かが見つかる、何かができあがるみたいなことを、すごく大事にされていた気はしましたね。一発OKは全然なかったですし。
―― そうした三浦監督の演出を、豊川さんはどう受けて立ったんですか?
僕がいちばん大事にしていたのは、何回も何回もやっていくなかで、自分が飽きないこと。あるいは慣れないこと。自分がそうなるのがいちばん怖かったので。どういうふうに新鮮な状態に自分を保つかっていうことがいちばん難しかったと思いますね。それは監督にはできない俳優の仕事なので。同じ場面を10回演じたとしても、毎回はじめて演じたような新鮮さを、どうやって自分のなかで保つかということでしたかね。
―― 裕一を演じた藤ヶ谷太輔さんは、そのあたりを、どうされていましたか?
藤ヶ谷くんは本当に素晴らしくて、忍耐強くずっとついていってやっていましたね。藤ヶ谷くんと僕と三浦監督の好みが、たまたま合う一点をずっと探りながら撮影をしていたって感じですかね。