Apr 04, 2018 interview

女性たちのリアルな欲望とセックスを描く衝撃作『娼年』 監督・三浦大輔×主演・松坂桃李 ロングインタビュー

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セックスという行為に対して滑稽さを出さないと真摯ではない

──舞台中から映画化は決まっていましたが、公演の間にも松坂さんと映画のことを話しましたか?

三浦 舞台をやっている最中は舞台に集中しようということで、映画の話は一切しませんでした。舞台が終わったときは燃え尽きた感じがあって(笑)、そこから映画に取り組むモチベーションを上げるのが大変でしたね。

松坂 うんうん、そうでしたね。

三浦 もう舞台だけで良くないか?って(笑)。

松坂 あはは(笑)。

三浦 でも映画はすでに決まっていたので、ふたりで会って、映画ももちろんやろうって話をして(笑)。映画でやりたいことを説明しましたけど、役作りに関してはほぼ、何も言わなかった。僕としては舞台より映画の方が原作に近づいたと思っています。もちろん映像だからということもありますけど、松坂くんがリョウという存在を確立したということは、舞台を経てさらに思いましたね。

松坂 そこはやっぱり舞台のベースラインがあったからこそ、映画ではリョウに対して正面から向き合えるようになったと思いました。映画のために一から役を作るんじゃなくて、リョウの繊細な心をより探っていく作業が早い段階から出来たのは救いでしたね。

──舞台と映画、同じ作品で演出家と主演俳優として再び顔を合わせるのはとても珍しいと思いますが、松坂さんから見て、舞台と映画で監督は何か違いを感じましたか?

松坂 舞台でももちろんいろいろありましたけど、映像になってくると、よりお芝居の要求のハードルが上がった気がしました(笑)。

三浦 え、ホント? そうかな……(笑)。

松坂 でも監督のことを信頼しているので僕はそれがすごく嬉しくて。監督との繋がりを自分の中でしっかりと握りしめてれば、絶対にリョウも、『娼年』という作品も、しっかりとしたいい形になるという確信めいたものがありました。

──監督としてはハードルを上げた意識はあまりなかった?

三浦 松坂くんに対してはそうですね(笑)。舞台でベストの演技も観ているので(笑)、そんなもんじゃねーだろみたいな気持ちは全然なかったです。舞台でももちろん思ったことですが、映像で撮ってみて改めてこれは松坂くんじゃないと成立しないというのはさらに確信しました。めっちゃ難しいことやってんなっていう(笑)。これ、松坂くんじゃない人で撮ってたらどうなってたんだろうっていう恐ろしささえ感じたので。

──現場で常に裸でいることが当たり前という状況も珍しいですが、そういう作品だからこそおふたりの関係性が特別なものになるということがやっぱりあったのでしょうか?

松坂 これだけ心身ともに疲弊する作品を共に乗り越えるって奇異だと思いますね(笑)。関係性というか繋がりの厚みみたいなものが変わるということはよくわかりました。舞台もめっちゃ大変でしたしね。

三浦 そうね、ほんとに大変でしたね(笑)。全てをさらけ出さないといけない作品ゆえに、舞台も映画も無茶ぶりに近いくらいの高いハードルを設定しないと新しいものは作れないと踏んだので、やっぱりそこを乗り越えようとふたりでもがいていた感じはありますね。

──戦友的な。

三浦 そうですね。稽古や撮影を重ねるうちに僕も松坂くんも目標に達すれば作品として結果が出るという期待は高まっていったので、このままふたりの熱量が冷めないよう乗り越えていこうという想いがありました。

──ちなみに、上映中、試写室ではけっこう笑いが起きていたんですが……。

三浦 あ、笑ってほしいですね(笑)。石田さんの原作を忠実に映像化しようという思いはありましたが、女性の欲望を肯定するもともとの話からブレずに、セックスに対してどこか間抜けさというか滑稽さを求めるのが僕の色というか。それがないと僕的には気持ち悪く思ってしまうんです。女性の独りよがりのナルシストな感じとか男性の独りよがりのスケベ心とか、そういうことではなくて、客観的に見たときのセックスという行為自体の間抜けさ、滑稽さが付いてこないと気持ち悪くて。それが笑いに繋がるんだと思います。もちろんつくっているときは笑わせる意識はないんですけど(笑)。変な話、リョウくんとヒロミさんが、「リョウくん」「ヒロミさん」って行為中に名前を言い合うシーンも笑っていいところだと思うんですよね。

松坂 あそこは笑いますよね(笑)。

三浦 やっている本人たちは必死だけど、傍から見てると何やってんだっていうのは絶対あると思う。逆にそこを描かないとセックスに対して真摯じゃないのかなとも思います。照れ隠しではないんですけど。だから、現場では必死だったけど、編集しながら面白いな、松坂くんって笑ってました(笑)。

──最初、試写室では笑っていいのかいけないのかちょっと迷う雰囲気があったんですけど、中盤も過ぎてくると場も温まってきてみんなだんだん声を出して笑っていて。

松坂 それがいいんですよね(笑)。

三浦 うん、それでいいと思う(笑)。

──その辺も含めて、完成作をご覧になったときの感想を教えてください。

松坂 やっぱり最初は面食らうし、この作品はどういう感じで観るのが正解なんだろうって思うのもまたその通りで。でも最終的には、あれ、なんか気持ちが軽くなった?というような感覚になったんですよね。同じような感覚が観ている人にちゃんと伝わっていればこの作品は大成功だと思いましたし、その予感も確実にしています。だから完成作を観たときは、現場で感じた「いいものができる」っていう言葉では言い表せないよう感覚に近いものが形になったと実感しました。