『TRICK』『SPEC』に続くシリーズ物の誕生を予感させる堤幸彦監督最新作、Huluオリジナル『死神さん』。田中圭が演じる再捜査専門の刑事・儀藤堅忍が、連絡係(パシリ?)の警察官・メイ(前田敦子)の協力を得ながら、埋もれた冤罪事件の真相を追いかけていく。1話ごとに新たな相棒とコンビを組む設定も奇妙なら、全キャラクターのクセの強さも、過去作以上。14年ぶりの田中圭との仕事から、前田敦子の魅力、さらに地上波ドラマと配信ドラマの違い、その可能性を堤幸彦監督が語った。
誰も見たことがない田中圭を作りたい
――堤監督と田中圭さんが組まれるのは久々ですね。
14年前に『包帯クラブ』という映画を一緒にやらせてもらったんですが、それ以降はほとんど接点がなかった。今の彼は本当にいろいろなタイプの作品に出ていますが、14年前に見た田中圭の純粋さと、ある意味機械のように正確な演技は今も変わっていないなと思いました。
――14年前の田中さんの印象はどのようなものでしたか?
『包帯クラブ』では、女優さんを何人か決めるオーディションがあったんですが、圭くんに相手役をやってくれと言ったことがありました。最初は普通の役回りをやってもらったんだけど、オーディションは1日中やっているので、僕がだんだん飽きてきて(笑)。圭くんに次はちょっと渡部篤郎さんでやってみてとか、むちゃぶりを毎回その場でしたんです。彼は「へっ!?」って言いながらも瞬間的に、渡部さんのモノマネをやってくれた。それが本当に器用で面白くて。その印象がむちゃくちゃ強かったので、今回の『死神さん』でも、しゃべり方であるとか、瞬きもほとんどしないとか、他人の顔を見ないとか、そういうちょっと定石をはずした変人キャラみたいなものをリクエストしたんですが、それは僕の中では14年前のオーディションの続きなんですよね。とにかく誰も見たことのない田中圭を作りたいなというのは、原作や脚本を読みながら思っていたことですね。
――最近の田中さんしか知らない人だと、堤監督はなんてことをしてくれたんだと驚くような強烈なキャタクターですね。
そうかもしれない(笑)。でも、僕の中では10数年かけて彼に抱いてきたイメージを、ごく自然に投影したら、ああなったんですよ。
――田中さんが演じた儀藤堅忍のようなクセの強いキャラクターは、どの段階で作り込まれるんですか?
メインになるのは衣装合わせですね。帽子をかぶらせたいと思ったんだけど、帽子だけだと寂しい。帽子から毛がいっぱい出てる方が良い。じゃあズラだっていうことで、圭くんにカツラをかぶってもらって。それから顔の真ん中にでっかいホクロが欲しいねとか、入れ歯を入れようかとか、いろんなことを衣装合わせでやるんです。やり過ぎにならないようにしつつ、刑事コロンボみたいな同じコートを毎回着て、猫背にしようというのはその時にできましたね。あと「逃げ得は許しません」という決めポーズも、そのときに。いや、決めポーズはそのちょっと前かな。
――ということは、堤作品では衣装合わせによって作品の大きな方向性が決まるということですか?
衣装合わせはすごく大きいです。それはもう過去の『TRICK』から『SPEC』から、全部衣装合わせで出来ていますね。『死神さん』で圭くんが帽子を脱がないのも衣装合わせで決めました。あれは脱いじゃだめなんです。そこに最大の秘密がある(笑)。
――田中さんのセリフはかなり多いですが、現場でアドリブを加えることはあるんですか?
彼の場合はセリフを正確無比に憶えてきます。だからというわけではありませんが、アドリブは今回はそんなになかったですね。というのは、撮影している段階と配信時期にだいぶ間が空くので。これがウィークリーのテレビドラマだったら、例えば裏番組で来週何をやっているかも分かる。「何度目だナウシカ」ってアドリブを入れることも出来る(笑)。配信や映画もそうですが、撮ってから1年ぐらい寝かすものに関しては、ヴィヴィッドな小ネタはあまり使わないですね。