リアルファイトに近い殺陣シーン、両面性を持つ登場人物の面白さ
──アクションシーンはいかがでしたか?
撮影監督は『るろうに剣心』の石坂拓郎さんだったので安心感がありましたし、佐藤健さんと一緒だったので面白かったですね。ローズ監督がこだわっていたのはリアルファイトに近いもの。時代劇ならではのつばぜり合いみたいなのが好きじゃないらしく、セリフを言っている間に相手を倒せるんじゃないかという感覚を持ってました。時代劇において“装飾”を極限まで外していった時、戦いとはどうなるのか。佐藤健さんと殺陣師の方とすごく話し合いました。刀を持っている以上、所作は入らざるを得ないんですけど、息遣いも含めてリアルなものになったんじゃないかなと思います。難しくはありましたけど佐藤さんが引っ張っていってくれましたし、監督のイメージするところに近づけたんじゃないかとは思います。
──青木さんの演じる植木は、どういう人物として演じようとしていたのでしょうか?
とりあえずやってみてトゥーマッチだったら差し引いていこうとしていました。この映画を海外の人が観たとしたら、フィジカルな表現が必要だし、それが強みに変わると思っていたので、ちょっと大きめにやっていたんです。現場で演じていた感覚としてはわかりやすいくらいの味付けにしてちょっとあざといくらいに映るかな? と思ったんですけど、完成作を観た時、映画には程よく作用したんじゃないかなと思いました。
──ある意味、騙されたと思いました(笑)。
なら良かったです(笑)。甚内もそうですし、他のキャラクターも遠足(とおあし)に参加して順位を上げたいとか賞金が欲しいとかそれぞれの事情がありつつ、政治的な思惑があったり、両面が見られるキャラクターが多くて。本音と建て前が見えて面白いなと感じました。
今でも思い出す、手塚治虫の名作「火の鳥」の一編
──ありがとうございました。では最後に、「otoCoto」ではみなさんにこれまで影響を受けた作品を挙げていただいているので、青木さんもお願いします。
中学校の頃に読んだんですが、手塚治虫さんの「火の鳥」の「乱世編」に出てくる、猿の赤兵衛と犬の白兵衛の物語があるんです。2匹はすごく仲良かったんですけど、それぞれの仲間たちが抗争になってしまったため、端的に言うと猿と犬が戦わざるを得なくなってしまい、結局2匹は命を落としてしまうんです。“世の理を表す”じゃないですけど、社会には喜びも悲哀もさまざまなものが詰まってるなと思ってグッと来たんですよね。実生活でも社会で生きていく上で、もともとは楽しいことからスタートしたはずなのにいつの間にか“楽しい”だけで動くわけにいかなくなることもある。それが人間というものなのか、社会というものなのかわかりませんけど、もっと上手いことできたらいいなと思うんですけど。今でもそういう感情を思い起こす作品を観たり読んだりすると、「火の鳥」のことを思い出します。
取材・文/熊谷真由子
撮影/中村彰男
青木崇高(あおき・むねたか)
1980年生まれ、大阪府出身。『バトル・ロワイアルII~鎮魂歌』(03年)で本格映画デビュー。その後、映画『海猿ウミザル』(04年)、『一命』(11年)、『るろうに剣心』シリーズ(12年・14年)、『渇き。』(14年)、『日本で一番悪い奴ら』『沈黙-サイレンス-』(16年)などに出演。2018年はNHK大河ドラマ「西郷どん」、『モリのいる場所』『おもてなし』『友罪』『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』『来る』に出演した。ドキュメンタリー番組「セブンルール」(EX)ではメインパーソナリティを務めている。
『サムライマラソン』
1855年、幕末。迫る外国の脅威に備え、安中藩主・板倉勝明(長谷川博己)は藩士を鍛えるため、十五里(約58km)の山道を走る遠足(とおあし)を開催する。その裏で、とある行き違いから、藩士不在の城に藩主暗殺を狙う刺客が幕府から放たれる。ただ一人、迫る危機を知った唐沢甚内(佐藤健)は、暗殺計画を食い止めるため、仲間たちに危機を告げ共に戦うため、走ることを決意する。
原作:土橋章宏「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫)
監督:バーナード・ローズ
脚本:斉藤ひろし バーナード・ローズ 山岸きくみ
出演:佐藤健 小松菜奈 森山未來 染谷将太 青木崇高 竹中直人 豊川悦司 長谷川博己
配給:ギャガ
2019年2月22日公開
©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
公式サイト:https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/
「幕末まらそん侍」土橋章宏/ハルキ文庫
第37回城戸賞を受賞した「超高速!参勤交代」などの土橋章宏による、日本のマラソンの発祥である“安政の遠足”を題材とした歴史小説。2016年に刊行された「引っ越し大名三千里」は、星野源主演、犬童一心監督のメガホンで『引っ越し大名!』として映画化、今夏に公開されることが決定している。
「火の鳥 乱世編」手塚治虫/角川文庫ほか
手塚治虫のライフワークであり、代表作のひとつである「火の鳥」。半世紀以上前に描き始められた作品だが、多くのテーマを孕み、今も多くの人に愛されている。「乱世編」は平安時代末期を舞台に、源氏と平氏の争いで数奇な運命に巻き込まれた恋人たちの悲劇を描く作品で、その中で猿の赤兵衛と犬の白兵衛の物語が登場する。