「超高速!参勤交代」などの土橋章宏原作の「幕末まらそん侍」が『サムライマラソン』として映画化された。『不滅の恋/ベートーヴェン』(94年)などのバーナード・ローズ監督がメガホンを執ったからか、異色とも言える時代劇となった本作に、主人公・唐沢甚内(佐藤健)の上司・植木義邦役で出演する青木崇高に撮影中のエピソードや監督の演出を受けてみての印象などを語ってもらった。
ある意味“鎖国状態”だった時代劇で、ローズ監督が仕掛けた演出
──バーナード・ローズ監督の演出は独特だったそうですね。
テストせず、いきなりカメラを回すのでイレギュラーなものを取り込みやすいということがありました。本番前のテストで芝居を固めて撮ることも、明確な画が決まっているということなのでもちろんいいと思うんですけど、それだけじゃない面白さ――即興的なものが生まれやすい。正確に言うと即興ではないんですけど、ライブ感があるものは面白くて好きなので、僕はそういう演出も大好きで。芝居は繰り返すことで鮮度と言いますか、相手の出方もわかってきてしまうからその瞬間のいい衝突が段々なくなってくる。だからテストがないとファーストタッチみたいなものは得られますし、面白い映像が撮れる可能性はすごく高いなと思いました。
──なるほど。日本ではあまりないやり方ですよね。
そうですね。しっかり段取りを決めて撮影を始めることが多いですね。
──完成作をご覧になって、ローズ監督だからこその表現だと思ったシーンは?
たくさんありました。まず冒頭から「なんじゃこれは! 面白いな!」みたいな(笑)。いわゆる従来の時代劇とは異なる解釈の、一線を画す作品だと思っているので、その違和感はすごくいいと思いました。日本ではなかなか選ばない撮り方じゃないですかね。時代劇ファンの方で時代劇とはこうあるべきだ、と観る方は戸惑うかもしれません。
──そうかもしれないですね。
いろいろな見方をする方がいらっしゃいますからね。それに、豪華キャストと言いながらも、いい意味でのフラット感があってそういう視点も新鮮で面白かったです。この人が演じているから見せ場が来るんじゃないかみたいな先入観がいい意味で裏切られていきますから(笑)。そういう点でローズ監督が撮る意味はあったと思います。ある意味、時代劇は日本人しか撮ってこなかった鎖国状態だったと思うので、監督自身がペリーみたいな存在だったんじゃないでしょうか。
──音楽の使い方とかも異質なものを感じました。
ここでこう来ると思いきや、あれ、来ない?! みたいな(笑)。
──現場ではテストなしだったとのことですが、クランクイン前のディスカッションはすごくされたそうですね。
役にもよると思うんですけど、勘定方は勘定方で集まって、上司と部下の感じでちょっとコミュニケーションしてみてと、舞台におけるエチュードのようなことをしました。お互いの身分の違いなどを認識しておいて、“彼が仕事でミスしたらなんて言う?”といったシチュエーションを設定して、言葉は時代に即していないんですけど、即興で芝居していく。感覚や関係性を劇中で反映するのに役立ちますし、監督は細かいところのニュアンスはわからなくても人間関係における骨の部分をしっかり理解しているので、そこで構想した部分もあったかと思います。