Jul 11, 2017 interview

「欲望に素直な女性たちを全肯定したい」官能映画の名手・廣木監督インタビュー

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廣木監督に大きな影響を与えた2人の作家

 

──「otoCoto」ではクリエイターのみなさんに愛読書についてお訊きしています。文芸作品から少女コミックものまで幅広く映像化している廣木監督ですが、お好きな作家というと……。

僕がピンク映画で監督デビューしたのは1980年代だったんですが、その時代に女の子の性についていちばん赤裸々に描いていたのは漫画家の岡崎京子さんでした。今でも僕の家の本棚には岡崎京子さんのコミックがたくさん並んでいます。80年代は内田春菊さんや岡崎京子さんといった女性漫画家ががっ〜と出てきた時代で、小説よりもコミックのほうが女性の心理をリアルに描いていたように思います。ピンク映画も負けてはいられないと、男性の視点からピンク映画を撮っていましたが、女性の視点から描かれた岡崎京子さんのコミックにはすごく影響を受けました。岡崎京子さんの作品はどれもいい。『愛の生活』もお勧めだし、やっぱり『pink』は印象に残っていますね。

──『pink』の主人公はペットのワニを飼うために、ホテトル嬢になる。廣木作品のヒロイン像と重なりますね。

完璧にルーツになっていますね(笑)。あと僕のルーツという意味では、寺山修司さん。アテネ・フランセの映画講座に僕は通っていた時期があって、寺山さんが講義をやっていたんです。僕の映画人生は寺山修司から始まっているんです。僕の一般映画デビュー作『800 TWO LAP RUNNER』(94年)に短歌好きな女性が出てくるのはそのためです。寺山修司さんが書いた戯曲『毛皮のマリー』や評論集『書を捨てよ、町へ出よう』もお勧めですね。

 

取材・文/長野辰次
撮影/名児耶洋

 

プロフィール

 

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廣木隆一(ひろき・りゅういち)

1954年福島県郡山市出身。ピンク映画『性虐!女を暴く』(82年)で監督デビュー。陸上部に所属する高校生たちの青春ドラマ『800 TWO LAP RUNNER』(94年)で一般映画に進出。寺島しのぶ主演『ヴァイブレータ』(03年)はヨコハマ映画祭監督賞など数多くの映画賞に輝いた。近年の監督作に『さよなら歌舞伎町』(14年)、『ストロボエッジ』(15年)、『オオカミ少女と黒王子』(16年)など。公開待機作に『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(9月公開)がある。

 

レビュー

 

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福島と東京を高速バスで往復するひとりの女性を主人公にしたR15指定の社会派官能ドラマ。普段は福島で公務員としてマジメに働いているみゆき(瀧内公美)だが、週末は東京に上京してデリヘル嬢として秘密のアルバイトをしている。仮設住宅で父親・修(光石研)と2人きりで暮らしているみゆきにとっては、唯一自分が解放できる時間だった。オーディションでみゆき役に選ばれたのは、『日本で一番悪い奴ら』(16年)で綾野剛を相手に大胆な濡れ場に挑んだ瀧内公美。震災がきっかけとなり、世間の常識に囚われずに生きようとする主人公・みゆきを繊細に演じてみせた。仮設住宅が現代の長屋として描かれており、補償金が原因で両親が別れてしまった新田(柄本時生)、夫が汚染水の処理に掛かりっきりで鬱状態の主婦・時子(安藤玉恵)、アマチュアカメラマンの沙緒里(蓮佛美沙子)など、様々な視点から福島の現状が伝わってくる。

映画『彼女の人生は間違いじゃない』

原作:廣木隆一「彼女の人生は間違いじゃない」(河出書房新社)
監督:廣木隆一
脚本:加藤正人 
出演:瀧内公美 光石研 高良健吾 柄本時生 篠原篤 蓮佛美沙子 他
配給:ギャガ R15 
2017年7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
公式サイト:http://gaga.ne.jp/kanojo

 

 

原作紹介

 

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小説「彼女の人生は間違いじゃない」廣木隆一/河出書房新社

少女コミック原作のキラキラ映画からR指定の官能映画まで多彩な作品を手掛けている廣木隆一監督の小説家デビュー作。みゆきを主人公にしたストーリーは映画とほぼ同じだが、みゆきがデリヘルで働き始めたきっかけが本人の独白で語られるなど、みゆきの心情により寄り添った内容だといえる。また、パチンコ三昧だったみゆきの父親が小説の後半では土中のセシウムを吸収する菜種の栽培に取り組み始めるなど、フクシマで暮らす人々にとって希望を感じさせる前向きなエンディングとなっている。高良健吾が演じていた三浦の劇団の舞台内容も分かるので、登場キャラクターたちの内面を深く知りたい人におすすめ。

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廣木隆一監督おススメ本

 

「pink」岡崎京子/マガジンハウス

1989年に発表された、人気漫画家・岡崎京子の代表作。裕福な実家で生まれ育ち、普段はOLとして働いているユミは、マンションで飼っているワニのエサ代を稼ぐために夜はホテトルのバイトをしている。大学生のハルヲを愛人にしている義母のことを嫌っているユミだったが、なぜかハルヲとは気が合い、血の繋がらない義理の妹・ケイコ、ワニとの3人と一匹とのポップでハイな共同生活の日々が過ぎていく。消費が美徳とされたバブル期の華やかさとお金のために平然と性を切り売りする女性のタフさを感じさせる、岡崎京子ならではの世界だ。

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