Jul 11, 2017 interview

「欲望に素直な女性たちを全肯定したい」官能映画の名手・廣木監督インタビュー

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女優の新しい顔を引き出す廣木監督の演出スタイル

 

──福島の仮設住宅で地味に暮らすみゆき、デリヘル嬢として東京で働くYUKIとふたつの顔を持つ主人公を演じた瀧内公美は、オーディションで選んだそうですね。廣木監督はオーディションでどこを見るんでしょうか?

芝居がうまいか下手かよりは、その人が持っているものですね。具体的に言葉で説明するのは難しいけれど、新しい種族に出会いたいというか、自分が知らないような新しいキャラクターに遭遇したいというか、そういった願望があります。「この子ならこの役をうまく演じてくれるだろうな」というよりも、「この子なら何か違ったものが生まれそうだな」と、そういうところを見るようにしていますね。あとナチュラルだといいですね。

──意外性のある女優、未知数の女優に惹かれるということですか。

う〜ん、そういうことになるかな。『ヴァイブレータ』の話になるけれど、あの作品を撮っていたとき、寺島しのぶと僕はすごく仲が悪かったんです。彼女は初号試写にも現われず、「監督は私のことを嫌っている」と思われていた。撮影現場では僕は何も言わず、「もう1回」「もう1回」とばかり言っていました。大森南朋が「ああいう監督なんだから」と寺島を説得してくれて。僕の中ではそれまでの寺島しのぶとは違う顔を、僕は撮りたかったんです。今は凄く好きな女優だし仲良くさせてもらってます。

 

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──舞台を中心に活動していた寺島しのぶが女優としての新境地を切り開いたと高評価を得た『ヴァイブレータ』ですが、観ていてヒリヒリ感が伝わってきました。

やっぱり上手いですからね。その辺は寺島のお陰だと思ってます。僕も色々勉強になるし。その後も『やわらかい生活』(06年)やWOWOWドラマ『ソドムの林檎 ロトを殺した娘たち』(13年)にも出てくれていますしね。

──『彼女の人生は間違いじゃない』では、デリヘル嬢役の瀧内公美が体当たりの演技に挑んでいます。元カレ(篠原篤)とベッドで向かい合う場面はすごくナイーブなシーンになっています。

なるべく撮影の後半に持ってくるようにしていたんですが、あのシーンは1日では撮り切れず、2日がかりでした。1日撮ってみたけれど、いまひとつだったので「明日、もう一度撮ろう」ということにしたんです。カメラの前で脱ぐことは当然緊張するだろうし、その上で役の気持ちになりきって芝居をしなくてはいけない。納得できる表現に達するまで、何度でもやってもらうしかないんです。僕が代わりに演じるわけにはいかないので。本人も現場に入って、演じながら腑に落ちることもあるでしょうしね。

 

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──デリヘル嬢たちをホテルまで送迎するドライバー役の高良健吾も、「このバイトやってたの?」と思わせるほどの好演。

健吾は『M』(07年)に出てもらった後、何本か一緒に仕事していたんですが、今回は久々でした。『軽蔑』(11年)以来かな。ちょっと見ない間に、俳優としてすごくうまくなっていた。いや、うまいというのとは違うな。存在感が増していましたね。カメラが回っていないときは、以前どおりの好青年なんですが、すっかり頼もしい存在になっていましたね。

 

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──仮設住宅に新興宗教の勧誘が来たり、放射能汚染が理由でお墓に入っていたお骨を新しいお墓に移すことができないなど、あまり語られることのない被災地の現状も伝わってきます。

新興宗教の勧誘で壺を売りつけられるというのはフィクションですが、仮設住宅に宗教の勧誘が押し掛けているというのは事実です。お墓のエピソードも実話です。津波に遭ったお墓は放射能の線度が高くて、お骨を移せないままになっているところをロケハン時に何度か見かけました。被災地の問題は、まだ何も解決していないと感じています。