May 13, 2022 interview

横浜流星が語る 俳優人生の転換点となる『流浪の月』

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本屋大賞受賞の衝撃作『流浪の月』が、『悪人』『怒り』の李相日監督で映画化。幼い頃に誘拐された過去を持つ家内更紗役を広瀬すず、元誘拐犯の佐伯文を松坂桃李が演じることが話題だが、脇を固める多部未華子、柄本明、内田也哉子らの演技も見逃せない。そのなかでも、早くも今年の助演男優賞確実の声が聞こえてくるのが、更紗の恋人・中瀬亮を演じる横浜流星。更紗の過去をいたわりつつ、愛しすぎるがゆえに彼女を傷つけ、そして自身も傷ついていく。主演の2人が〈静〉の演技をじっくり見せるなら、横浜流星はあらゆる感情をさらけ出すことを背負わされたかのよう。

俳優としての新境地をひらいたと思わせる質の高い演技を見せた横浜流星さんに『流浪の月』での役作り、共演者から受けた刺激などをうかがいました。

素直に演じることで溢れ出てくるもの

―― 出演オファーの前から、原作を読んでいたそうですね。

ステイホーム期間中に時間があったので、インプットしたいなという思いで、いろいろ本を探していたんです。そのとき、「愛ではない。けれどそばにいたい。」という本の帯の言葉に、これはどういう意味なんだろう? と思いながら『流浪の月』を読みました。

―― どのキャラクターが印象的でしたか。

最初はやっぱり、(松坂)桃李さんが演じた文の目線で自分は読んでいたので、亮に対しては「この男、なんだよ!」って思っていました(笑)。

―― その亮役でオファーが来たわけですね。戸惑いはありませんでしたか?

それはなかったです。好きな原作だったし、李監督ともいつかご一緒したいなと思っていたので。亮の役でオファーをいただいてから、改めて亮の目線で見ると、亮には亮の過去がある。愛に飢えていて、更紗のことをすごく想っているんだけど、少しずつ更紗の心が離れていって、どんどん歪んでいく。でもそれは更紗を護りたい一心だったんです。だから、最初は嫌な奴に見えたけど、自分はその嫌な部分を大きくしていくんじゃなくて、等身大で人間らしく演じられた良いなと思って、そこから亮として役を作っていきました。

―― 亮は、1シーンの中で喜怒哀楽の感情を表現しなければならないので、難易度が高い役ですね。

最初はやっぱり、ここは見せなきゃいけない、こう表現しなきゃいけないっていう思いが先行しすぎていました。でも、「出すんじゃなくて出るんだ、溢れ出てくるんだ」って監督に言われて。そこからは、素直に演ることの方が大事だなと思えて、少しずつ変わっていきました。

怒りを表現するために

―― 亮が更紗をクッションで激しく叩きつけるシーンも、突然スイッチが入る感じに恐怖を感じる迫力でした。ああいった場面は、単に感情を爆発させるのではなく、どれくらい怒りを見せるべきか計算されたのでは?

そうなんです。監督もそこを気にしてくれていて、あのシーンは、いくらでも凶暴に出来るじゃないですか? それこそ髪を引っ張ったり。でも、亮は今までそんなことをしてこなかったから、どうして良いか分からない。だから、どうしようもない思いを更紗にぶつけてしまうときに、ちょっと子どもの喧嘩みたいにして、そのまま殴るんじゃなくて、クッションで叩いたりしているんです。

―― 撮影は順撮りですか?

出来る限り順撮りで撮影が進行していったので、感情を作りやすかったです。普通は順撮りは出来ないことが多いので、贅沢な現場だなと感じました。そういうところからも、李監督は役者第一で考えてくれている人だなと感じました。もちろん厳しいけど、すごく幸せな環境の中でお芝居することが出来て感謝しています。

―― 李監督の演出は、どんなスタイルですか?

リハーサルを何度も何度もやって、やっと本番に行けるんですけど、本番からもまだまだあるんです。監督は、こうしろっていう答えはくれないんですよ。ヒントをくれて、そこからいろいろ考えさせるっていう感じだったので、僕はずっとこれで正解なのかと思いながら過ごしていました。だんだん分からなくなっていくんですけど、それを重ねていくと、自分が出来ることは亮として更紗を愛することだと思って、その気持ちをずっと大事にしていこうと思いました。