モノクロ映画のヒロインと、現実世界を生きる映画青年の切ないラブストーリーを描いた『今夜、ロマンス劇場で』。ただのファンタジーではない、映画を愛する気持ちに溢れたオリジナル作品である今作は、多くの映画ファンの心をグッと掴む。綾瀬はるかと坂口健太郎の対談インタビューに続き、9年もの間、今作の構想を練っていたというプロデューサー・稲葉直人と、メガホンをとった監督・武内英樹に、この作品への愛や思い入れをたっぷりと聞いてきた。
綾瀬はるかの唯一無二の魅力を引き出す“お姫様のラブストーリー”
──映画『今夜、ロマンス劇場で』は、中盤から涙が止まらなくなるほど素敵な映画でした。
武内 ありがとうございます。僕も試写で泣いている人たちを見て、嬉し泣きしました(笑)。
──今作の構想は9年とお聞きしました。
稲葉 正直、9年間ずっとではなく、たまに間が空いていましたけどね(笑)。
武内 そこは9年って言っておけばいいの(笑)。
稲葉 じゃあ、9年間、ずっと考えていました(笑)!
──(笑)。この原案を最初に思い付いたのは、何がきっかけだったのでしょうか。
稲葉 映画『ハッピーフライト』(08年)で綾瀬はるかさんと一緒にお仕事をさせていただいた時に、コメディエンヌとしての才能だけでなく、凛とした佇まいも素晴らしい、とてもユニークな女優さんだと思ったんです。そんな彼女の唯一無二の魅力を最大限に引き出せる作品は何なのかを考えた時に、“お姫様のラブストーリー”が面白いんじゃないかと思ったのがはじまりでした。
──その時に、白黒の姿のまま、モノクロ映画からヒロインが飛び出してくるという案を思い付いたんですか?
稲葉 はい。そこで映画青年と知り合って恋に落ちるけど、彼女には秘密があって、その障害を乗り越えられるのかという、前半がコメディ、中盤に転調して、後半は一気に切ないラブストーリーになるというアウトラインと、色に興味を持った彼女が心躍らせるたびに色彩表現が豊かになっていくというものでした。それから数年後に脚本の宇山(佳佑)さんと合流して、二人で一年以上かけて脚本を練っていきました。
プロットを読んで、“ロマンティスト”な監督は「ぜひ撮らせてほしいと思いました」
──そのあと声をかけたのが武内監督だったんですね。
稲葉 はい。映画の前半は笑ってしまうのに後半は切ない流れに涙するという、一粒で二度おいしい構造にしたかったんですが、その両方が出来る監督ってなかなかいないんです。特に、コミカルさをいい温度感で演出できる人は本当にいなくて。この作品で武内さんが監督を務めることが決まった時に、「コメディ要素があるから武内さんなんですか?」と聞かれることが多かったんですが、意外にそれだけではないんです。監督は実はものすごくロマンティストなんです。
──そうなんですね。
稲葉 武内監督の昔のドラマ作品を見たときに、「この人はロマンティストだな」と思っていたんです。でも、実際に会ってみたら「本当にこの人?」って思いましたけどね(笑)。
武内 あはは(笑)。でも実際、ロマンティストだと思いますよ。昔、ディズニーランドでアルバイトをしていたこともありますし。
稲葉 出ました!ジャングルクルーズの船長!
武内 そうそう!毎日あの世界に足を踏み入れていると、ファンタジーが身体中に染み込むんです。でも、こういったファンタジー映画とはなかなか巡り合えないので、ものすごく良いチャンスをもらったなと思いました。
──じゃあ、オファーがあったときは、「わかってるな」と?
武内 はい(笑)。それと、この映画のプロットを読んだ時に、後半の切ない物語に涙が溢れてきて、ぜひ撮らせてほしいと思いました。そこで、やっとコメディのイメージから脱却できると思ったんです。
──ご自身が撮りたいと思うものを実現できる作品だったんですね。
武内 そうですね。ただ、本当にありえない設定なので、「自分にこういった出来事がリアルに起こったらどう行動するんだろう?」ということを、ちゃんと考えながら撮影するようにしました。役者さんたちにも、そういった精神状態を作ってもらうように努めました。
──映画が進むにつれて、中盤からはラブストーリーに変化していきますよね。
武内 はい。だからこそ、この物語のあり得ない設定に、観ている人たちが引っかかってしまったら素直に作品に入っていけないと思ったんです。なので、この世界観に観客をどう引き込むかという事に気を使いました。