Apr 16, 2019 interview

岸田繁インタビュー【後編】:“役者の一つ”として送り出す音楽制作で出会う“新しい発見”

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危険な香りがしつつも惹かれる?最近、改めて気になる人

──最後になりますが、岸田さんが影響を受けた本や映画やミュージシャン、または最近気になるものがありましたら教えてください。

たくさんあるんですけど、最近気になるのは、つげ義春さん。先日、フランスでつげさんの作品がにわかに盛り上がってるという話を聞いたんですよ。僕も昔、「ねじ式」という分厚い漫画本を持っていたんですけど、東京に住んでいた頃、大雨の日に家が浸水してシワシワになってしまって……。その漫画本がすでに絶版されてるやつだったので、うそや! と思って、結構落ち込んで。それ以来、自分の中のつげが終わった、みたいな(苦笑)。それが最近まで続いてたんですけど、フランスでの話を聞いて、もう1回読んでみようかなと思ってます。

僕はもともとは水木しげるさんがすごく好きで、その水木さんのアシスタントを、昔つげさんがされていたことがあるんです。で、水木さんとつげさんって、つげさんのほうが変わった人というか。きっと水木さんも変わってるんやろうけど、僕の中では水木さんのほうがメッセージが明快という印象なんです。逆につげさんは、何を考えているか全然わからんっていうか。作品を読んでも、その世界観はわかるけど、そこに何かの感情とかメッセージがあるかというと、すごく複雑で。深入りするにはちょっと危険な香りもしつつ、それでもやっぱり惹かれる部分があるんですよね。

──危険を察知しつつも惹かれるというのは、もしかしたらつげさんと岸田さんが似ているからこそとも思ったのですが、いかがですか?

やっぱり、自分がやってることでも自分で説明しきれへんような、何でこうなんやろう? と思うこと、あるいは、自分の中で辻褄が合わないんだけど、どうしてもそうなってしまうみたいなことってあるんですよね。例えば、人に優しくしたいのに、結局その人を傷つけてるようなことがあったりするじゃないですか。本意じゃないけれども、そうなってしまうみたいな。つげ作品はそういうのでしかない。それに対して、すごく嫌やなと思う部分と、自分もそうだと思ってる部分があって……。つげ作品を読むと、自ずと自分自身の創作であったり、嫌な部分であったりに向き合うことになるので、そういうところに興味があったりします。

取材・文/片貝久美子
撮影/中村彰男

プロフィール
岸田繁(きしだ・しげる)

1976年生まれ、京都府出身。立命館大学在学中に“くるり”を結成。1998年に「東京」でメジャーデビューを果たして以降、12枚のオリジナルアルバムを発表。『ジョゼと虎と魚たち』(03年)、『奇跡』(11年)など数々の映画の音楽を担当。2016年には「交響曲第一番」を発表し、今年3月に『岸田繁「交響曲第二番」初演』をCD・配信リリース、東京公演を成功させた。現在、本作「リラックマとカオルさん」のサウンドトラックが配信中。

作品情報
Netflixオリジナルシリーズ「リラックマとカオルさん」

ちょっとトボけたアラサー女性のカオルさんは、都内の小さな商社で働くごく普通のOL。ひとつ変わっていることは、いつの間にか住み着いたリラックマ、コリラックマ、そして掃除が大好きなキイロイトリと暮らしていること。真面目なことに少々のコンプレックスを抱いているカオルさんと、呑気なだららん生活を送るリラックマたちが過ごす色とりどりの12カ月をストップモーションで描く。
監督:小林雅仁
脚本:荻上直子
声の出演:多部未華子 ほか
音楽:岸田繁
主題歌:くるり「SAMPO」
クリエイティブアドバイザー:コンドウアキ
アニメーション制作:ドワーフ
Netflixにて2019年4月19日(金)より全世界配信
© 2019 San-X Co., L​ t​ d. All Rights Reserved. Netflix
作品ページ:​http://www.netflix.com/rilakkumaandkaoru


【サウンドトラック情報】
岸田繁「リラックマとカオルさん オリジナル・サウンドトラック(Netflixオリジナルシリーズ)」
配信中
配信形態:ハイレゾ配信(96kHz/24bit)、配信ダウンロード、定額制ストリーミング

岸田繁さんが気になる人
つげ義春(つげ・よしはる)

1937年生まれ、漫画家・随筆家。18歳の時、漫画「白面夜叉」でデビューし、貸本雑誌『迷路』(若木書房)などに作品を発表。1965年、『月刊漫画ガロ』(青林堂)の創刊者でもある白土三平と、水木しげると知り合う。つげも『ガロ』に発表の場を移し、水木しげるのアシスタントを兼業した。1968年、代表作の一つ「ねじ式」を発表。映像化作品も多く、「ねじ式」は1998年に石井輝男監督、浅野忠信主演で映画化、「リアリズムの宿」は2004年に山下敦弘監督のメガホンで映画化され、くるりが音楽を担当した。