字幕監修者としての留意点
──マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『華氏119』(18年)やスパイ映画『エージェント:ライアン』(14年)などに続いて、本作の字幕監修をされたわけですが、どのような点に留意されましたか?
プロの翻訳家がすでにきちんとした字幕を用意されていたので、英語のシナリオと照らし合わせながら確認した程度で、実はそれほど直してないんです(笑)。さすがプロだなぁ、うまく意訳して字幕に収まるようにしているなぁと感心しました。イラク戦争で負傷した若い兵士が登場する冒頭のシーンが“軍事委員会”となっていたのを“公聴会”と直したりした程度です。愛国者法について触れるシーンでは、米国の政治に詳しくない日本人向けに、テレビ番組のように存分に解説したくなりました(笑)。文字数に制限があるのが映画字幕の難しさですね。
──アクション女優のイメージが強いミラ・ジョヴォヴィッチが、普通の主婦というのも面白いですよね。夫役のウディ・ハレルソンとベッドの上で、主婦目線vs記者目線で語り合うことに。ジョヴォヴィッチ演じる妻は旧ユーゴスラビア出身という設定で、愛国心というワードにとても敏感です。調べてみたら、彼女の実際の父親はモンテネグロ人でした。
そうでしたか。“~ビッチ”ってモンテネグロやセルビアに多い名前ですよね。夫婦間の会話がこの映画はとても面白いと思います。もう一人の若手記者ウォーレン役のジェームズ・マースデンとその恋人役ジェシカ・ビールとのやりとりもいい。米国では政治問題や国際情勢を扱った映画では、専門家がビギナー向けに分かりやすく噛み砕いて説明するシーンが定番になっています。本作は記者の恋人が新聞を読み比べて勉強して、記者に「~ということでしょ?」と簡潔に説明してみせるわけですね。
──池上さんが出演しているニュースバラエティ番組で、若手タレントが視聴者目線になって池上さんに素朴な質問を投げ掛けるようなものですね。
そういうことですね(笑)。時事問題に詳しくない人でも、映画を楽しみながら理解できるようになっているわけです。ハリウッドはこういった難しいテーマのものでも、エンターテイメント化するのがとてもうまいなと思います。
取材・文/長野辰次
撮影/中村彰男
池上彰(いけがみ・あきら)
1950年生まれ、長野県出身。大学卒業後の1973年、NHK入局。1994年より「週刊こどもニュース」(NHK)で初代「お父さん」役を務める。2005年にフリーランスのジャーナリストとなり、時事問題やニュースを分かりやすく解説し、テレビ番組をはじめ様々なメディアで活躍している。3月30日に、レギュラー番組「池上彰のニュースそうだったのか!!」(EX)が放送予定。著書も多数刊行されており、直近に「民主主義ってなに?」(岩崎書店)などがある。
『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』
2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領はサダム・フセイン政権を倒壊させようと「大量破壊兵器の保持」を理由にイラク侵攻に踏み切ることを宣言。イラク戦争が始まろうとしていた。アメリカ中の記者たちが大統領の発言を信じ報道するなか、新聞社ナイト・リッダーの記者であるジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)はその発言に疑いを持ち真実を報道するべく、情報元を掘り下げていく――。
監督:ロブ・ライナー
出演:ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン、ジェシカ・ビール、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ロブ・ライナー、トミー・リー・ジョーンズ 他
字幕監修:池上彰
配給:ツイン
2019年3月29日(金)公開
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公式サイト:http://reporters-movie.jp