Mar 24, 2019 interview

池上彰が解説!映画『記者たち』の見どころ、フェイクニュースの見分け方【前編】

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忖度するのは日本人だけじゃない

 

──新聞といえども商業紙なので、読者が望まない記事は掲載できない。9.11後の愛国心一色となった米国では、政権批判の記事は掲載できなかったんですね。

そういうことです。特に地方部は保守的な傾向が強く、政権を批判するような記事を載せるとバッシングされかねなかったんです。「もう、お前のところの新聞は買わないぞ」と言われかねません。映画の最後にモデルとなった実在の記者たちが顔を出して「正しかったのはナイト・リッダー社だけだった」と語りますが、とても勇気あることだと思います。

日本もそうですが、米国人もどこの国の人も忖度するんです。国全体が戦争へ向かおうとしている時に、「それは間違っている」と主張することは大変な勇気が必要です。しかも、せっかく苦労して取材した内容を記事にしても、傘下の地方新聞には掲載されないという無力感も彼らは味わうことになります。でも、今になってようやく本当に正しかったのは彼らだったと歴史的評価を得ることになった。ロブ・ライナー演じる編集局長がクライマックスで「ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストを読んでいるのは兵士を送る側だ。我々の読者は兵士を出す側なんだ」と演説するシーンは感動しました。兵士を出す側、つまり記者は権力者側ではなく庶民側の視点から記事を書かなくちゃいけないと主張しているんです。あの編集局長の演説シーンはぜひ観るべきだと、知り合いのメディア関係者に『記者たち』を勧めているところです(笑)。

 

 

ネット情報と調査報道との大きな違い

 

──特ダネをつかんだ後も、ナイト・リッダー社の記者たちが地道に裏づけ取材を重ねるシーンが続きます。

よく新聞社は情報があるのに記事にしない、隠蔽しているに違いないと言われますが、そうじゃないんです。情報をつかんでも事実確認するのに時間がかかり、また事実が確認できないと記事にはできません。ここがネット情報との大きな違いです。SNSなどは投稿者が見たことをそのまま「今、こんなことが起きている」と知らせるわけですが、新聞やテレビは事実確認しなければ記事にはできません。

 

 

──裏づけに手間取っていると、他のメディアに抜かれかねない。

そのリスクもあります。地道に裏取りをしていても、競合紙が同じネタを追っていることが分かると、まだ充分に確認できていないのに報道してしまおうという誘惑に駆られます。誤報は往々にして、そういう状況で起きるものなんです。

──そんな時こそ、編集局長の判断や責任が問われるわけですね。

その通りです。ロブ・ライナーみたいなボスがどっしりと構えてくれていたら、下の記者たちはとても働きやすいと思います。理想の管理職ですね(笑)。取材は自由に進めろ、でも事実確認だけは怠るな。何か問題が起きれば、俺が全責任をとると。いいですねぇ。こういう管理職はなかなか実際にはお目に掛かれません。問題が起きると責任逃れする管理職がほとんどでしょう(苦笑)。

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