Aug 09, 2022 interview

父が紡いだ被爆者ノンフィクション『長崎の郵便配達』 娘が受け取った、いま伝えるべきメッセージ ーーイザベル・タウンゼント インタビュー

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次の世界へ届けるべきメッセージ

「いま父の伝えたかったメッセージが心の中にずっと在り続けています。これは素晴らしいプレゼントです。今度は私が、引き継いだメッセージを自分の子供たち若い世代に継承する番です。

現在ウクライナで行われている戦争によって、核の脅威は現実的なものになっています。私は核兵器の使用を否定します。使ったら本当に人類は終わりです。この作品に参加したことによって、その思いはますます高まりました。

映画を通じて、核兵器の危険性を伝えることで、子どもたちに現在の世界的な傾向に対して、レジスタンスとしてあらがってほしいし、行動してほしいと強く思っています。私自身、核の脅威を伝える責任を強く感じています」

彼女が言うように、次の世代へナガサキの苦しみを伝えることが大事だ。谷口稜曄氏が話し、ピーター・タウンゼント氏が書き残したメッセージ「長崎原爆が最後にならんことを」。本作はこれを伝えるための活動に積極的だ。

川瀬美香監督は、被爆地長崎の高校生2組に本作の予告映像を制作を依頼した。本作の舞台である長崎の若者に作ってほしいと考えたのだ。”平和を伝える役割はもうすぐ僕たちの番になる。でも思ったより知らないことが多い”というナレーションが印象的な内容だ。これは映画を手掛けた「ART TRUE FILM」のYoutubeチャンネルで公開されている。

また劇場公開に先駆け、6月29日、地元長崎の高校生たちが運営協力した高校生向け上映会が、長崎セントラル劇場で行われた。7月22日、東京でも平和学習に力を入れている田園調布学園の中高生と監督のディスカッションを開催。


「平和とは、勝手につくられるものではなく、自分たちでイチから築き上げるもの。平和な世の中になるためにはどうすれば良いのかを、一人一人が考えていくことが大切」
「大人も子どもも、学んだり、発信したり、自ら動く機会が必要なのでは。全員が、国連の職員になったりするのは難しいが、小さな一つ一つが積み重なって戦争のない世界に変わっていくのだと思う」といった意見が出るなど、終戦から77年目の夏、「ナガサキの郵便配達」が、平和へのメッセージを若い世代に届けている。

取材・文/小倉靖史

プロフィール
イザベル・タウンゼント(Isabelle Townsend)

女優・プロデューサー

1961年6月16日生まれ。フランス出身。

80年代、ブルース・ウェーバーやピーター・リンドバーグといった写真家のもとでモデルとして活躍。ラルフ・ローレンと5年間専属契約を結ぶなど、全世界的に活動の幅を広げる。1991年、女優としてのキャリアをスタート。2002年、フランスで英語によるインタラクティブな演劇プロジェクトを立ち上げ、ワークショップや演劇の演出を通じて、若者たちと舞台芸術への情熱を分かち合う活動がライフワークとなる。現在は、夫と2人の娘とパリ近郊に在住。父は元イギリス空軍大佐で作家のピーター・タウンゼント。

作品情報
映画『長崎の郵便配達』

『ローマの休日』のモチーフになったともいわれる、英国王女マーガレットとの世紀の恋で知られたピーター・タウンゼンド元空軍大佐。後に、世界を回りジャーナリストとなった彼が、日本の長崎で出会ったのが谷口稜曄(スミテル)さんだった。16歳で郵便配達中に被爆し、生涯をかけて核廃絶を世界に訴えた谷口さんを取材。1984年に1冊のノンフィクション小説を出版する。本作は、タウンゼンド氏の娘であり女優のイザベルさんが、2018 年の長崎で、父の著書とボイスメモを頼りにその足跡をたどり、父と谷口さんの想いを紐解いていくドキュメンタリー。

監督・撮影:川瀬美香

出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド

配給:ロングライド

©️The Postman from Nagasaki Film Partners

公開中

公式サイト longride.jp/nagasaki-postman