Aug 09, 2022 interview

父が紡いだ被爆者ノンフィクション『長崎の郵便配達』 娘が受け取った、いま伝えるべきメッセージ ーーイザベル・タウンゼント インタビュー

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想像を超える悲惨な状況をやっと知ることができた

ドキュメンタリー映画と同時進行されていた書籍復刊プロジェクト。谷口氏と親交があった齋藤芳弘氏が手掛けた完全邦訳版が、2018年8月9日に刊行された。2019年に英語版、スロベニア版を出版し、現在、ドイツ語版を翻訳中、今後フランス語版の出版を準備中だ。
世界に向けてプロジェクトがいよいよ動き始めた、2018年8月。イザベルは撮影のため長崎に初めて訪れた。

「初めて父の本を手にしたとき、夢中になって一気に読みました。
父が、どうして戦争の犠牲になる民間人、とりわけ子供たちのことをずっと想い続けていたのか、本を通じて知ることができました。しかし、長崎の現実を超える状況を具体的に想像できませんでした。


36年後、私は長崎に訪れました。
ようやく谷口さんがどんな戦いをして来られたか、どんな苦難を味わって人生を送られたか。また彼だけでなく、長崎市自体にどれほどのインパクトがあったのか。それをやっと知ることができました。

長崎の街は国際的なカラーを感じます。地形的にも自然豊かな港町で、湾に面した高台は、父の故郷であるイギリスのスコットランドを思い出しました。

また8月のお盆の時期だったので、なにかスピリチュアリティーを感じ、本当に心を打たれました。まだ原爆の傷跡が癒えていない。だからこそ、街の中に静けさが残っていていて、誰かが祈りを捧げている。そのような雰囲気がありました」

イザベルは、父の著書をなぞり、テープに吹き込まれた父の声を聞きながら、谷口氏が毎日歩いた稲佐山への階段、その頂上にある鳥岩神社、また被爆した周辺地域を訪ね歩いた。

また、精霊流しで新盆を迎えた谷口氏の家族と一緒に精霊船を引き、たいまつ祭りなど慰霊祭に参加した。長崎の祈りが最も強い時期での撮影だったため、なおさら街の精神性を感じとることができたのだろう。