自分に固執せず変化する
―― 阿部さんは、他人と関わっていくことで、自分が変わったという経験はありますか?
ありますよ。20代前半から役者を始めて、しばらくしたら仕事がなかった時期のことです。そのとき、あまり人に会いたくなくて、学生時代の友人としか交流してなかったんですけど、それじゃいかん!と思って、積極的に外に出るようにしました。どんな連中が集まっているか分からないけど、誰かに呼ばれたら、とりあえず行ってみるようにしました。
―― そういう時期ってありますよね。行動するまでが大変なんですよね。
それでも、最初のうちは行きたくなくて断ってたんだけど(笑)。「そんなに燻っていてもしょうがないだろう」と引っ張ってくれる人がいたので、外に出るようになりました。自分が危機的な状況だと思っていたから、当時いろんな習い事もしだしましたし。まぁ、食事したり飲んだりしているうちに、たくさんの人と知り合いになって、自分がこの仕事をどういう意味を持ってやっているのか、その人たちから教えてもらいました。
―― まったく違う仕事をしている知人から、客観的に自分自身を教えてもらった、と。
自分は素晴らしい仕事に巡り会えているんだ。ということも分かりました。人間との関わり方とか、なんかそういうものを、掴めるようになってきたときから、変わりましたね。
―― 本作の主人公は、当初仕事に裏切られたと感じ、現実を受け入れられなかった。現在の世の中で、彼のような人物は結構いると思います。そういう成瀬みたいな人たちに、阿部さんはどんな言葉をかけますか?
社会は変わっていくし、何が起きるか分からない時代だから、なるべく早めに、時代に合わせて自分を調整していかないと。自分が元気だからかもしれないけれど、新しいことにどんどん挑戦していくことに、年齢関係ないと思うんです。もちろん古き良き物も大切にしつつ。人生100年時代だから。そのつもりで新しいチャンスを見つけていったほうがいいんじゃないかな。
―― 年齢や状況に関わらず挑戦することが大事ってことですよね。
まず自分に固執しないほうがいい。変化することで、必ずそこには喜びもあるし、たぶん出会いもあるから。出会った人が、いろんな刺激をくれて新しい発見がある。そしてこれはチャンスでもある。
―― いろんな人に出会うことで刺激を受けて変わっていく。逆に自分の今までやってきたことも分かってくる。阿部さんご自身もそうだったわけですもんね。
そうそう、僕もそうでした。狭いコミュニティーに留まることなく、いろんな人に会いました。みんな、たまたま出会えた人たちでしたけど。そこにしがらみもなかったから良かった。
―― 自分の世界に留まっちゃダメだってことですね?
いやーそのままだと、絶対、気分も落ちてギュッと縮こまっていく。行き詰まりを感じると思うから、あえて自分を変えたほうがいんじゃないかなって思います。
取材・文 / 小倉靖史
写真 / 岡本英理
ヘアメイク / AZUMA(M-rep MONDO-artist)
スタイリスト / 土屋シドウ
犯罪撲滅に人生のすべてを捧げてきた鬼刑事・成瀬司。だが、コンプライアンスが重視される今の時代に、違法すれすれの捜査や組織を乱す個人プレイ、上層部への反発や部下への高圧的なふるまいで、周囲から完全に浮いていた。遂に組織としても看過できず、上司が成瀬に命じた異動先は、まさかの警察音楽隊!すぐに刑事に戻れると信じて、練習にも気もそぞろで隊員たちとも険悪な関係に陥る成瀬。だが、担当していた強盗事件に口を出そうとして、今や自分は捜査本部にとって全く無用な存在だと思い知る。失意の成瀬に心を動かされ手を差し伸べたのは、〈はぐれ者集団〉の隊員たちだった。音楽隊の演奏に救われる人たちがいることを知り、練習に励む成瀬と隊員たち。ところが、彼らの心と音色が美しいハーモニーを奏で始めた時、本部長から音楽隊の廃止が宣告される‥‥。
原案・脚本・監督:内田英治
出演:阿部寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政、光石研 / 倍賞美津子
配給:ギャガ
©2022『異動辞令は音楽隊!』製作委員会
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公式サイト gaga.ne.jp/ongakutai/