文豪・太宰治のスキャンダラスな半生を、3人の運命の女と3本の代表作を絡めて描いた禁断の物語『人間失格 太宰治と3人の女たち』。『Diner ダイナー』(19年)も話題になったばかりの蜷川実花がメガホンを執り、退廃的でありながら艶やかで、レトロでありながらヴィヴィッドな世界観を紡ぎ出す。蜷川とは『ヘルタースケルター』(12年)以来、2度目のタッグとなる沢尻エリカが、太宰治の愛人・太田静子を演じ、可憐かつしたたかな魅力をスクリーンで花開かせている。
ピュアで行動力がある静子は「ある意味強い」
――出演のきっかけはやはり蜷川実花監督からのオファーだったんですか?
実花さんからオファーされたので、ぜひということで。実花さんが監督で、主演は小栗(旬)くん、演じる静子は恋に恋する女性で楽しそうということで、脚本の全容を読む前に、即決でしたね。脚本はあえて自分が出ている部分しか読まなかったので、完成作を観てこんなに大変だったんだって知ったくらいです(笑)。完成作は実花さんの色が出ていて、やっぱりすごく好きな世界観でしたね。
――太田静子をどんな人物だと捉えていましたか?
恋をしてとにかくウキウキでルンルンみたいな女性を演じたいと思っていました。たとえ禁断の恋じゃなかったとしても、恋をした時のハッピーな気持ちは共通するものなので、誰でも共感できる部分ですよね。ただ、愛人って一般的にはいわゆる“日陰の存在”だと思うので、それをウキウキ楽しんでるっていうのはちょっと理解できなかったですが、きっと静子は自分だけの楽しみとして捉えていたんでしょうね。
――ウキウキではあるものの、後半では変化が見られますよね。
静子は欲しいものを手に入れた女性ですからね。彼が振り向いてくれなくても欲しいものは手に入れたっていう余裕があるんだと思います。太宰に煙に巻かれるような部分は正直、イラッとくるかもしれないですけど。
――正妻の美知子(宮沢りえ)への感情はどうだったんでしょう。
ちょっと理解に苦しむところはあります。あまりにもピュアで、でも行動力はあって。そういう点ではある意味強いですね。
――蜷川監督とは『ヘルタースケルター』以来ですが、改めて今回の現場で何か気が付いたことなどはありましたか?
改めてというわけではないですけど、やっぱり世界観を丁寧に作り込んでいくのは実花さんの得意とするところだなと思いました。役者としてはこういうこだわりのセットの中で演じるのはすごくアガります。実際にある古い洋館を美術で装飾しているんですけど、そこにいるだけで気持ちを作れるし演じていても楽しかったです。あのセットはとても印象に残っていますね。
――蜷川さんとはどんな話をされたんでしょうか?
実花さんにも「静子はとにかくハッピーでかわいい感じでいてほしい」ということを言われました。静子には重たい要素が一切ないんです。オファーをいただいた時、また実花さんが撮るということは、どんな重い役がくるんだろうって最初は構えていたんです。さすがに重い役だと(引き受けるか)悩むなぁという感じだったんですけど、静子のところだけ読んで、楽しそう! いけそう! と思いました。
――でも静子以外の女性は…(笑)。
そうですね。私が出ていないシーンは大変だという話は聞いていたから、あえて脚本を読まないでおいて完成作をすごく楽しみにしていたんです。それで完成作を観た時にようやくみんなが「つらい」と言っていた意味がよくわかりました(笑)。