読者から「リアルすぎる」との声が上がるなど大きな話題を呼んだ朝井リョウの直木賞受賞作『何者』がついに映画化! 就職活動をきっかけに自分が「何者」かを模索する5人の大学生を描く本作で、主人公の大学生・二宮拓人を以前から朝井と親交が深かった佐藤健が演じている。佐藤と朝井はいかにして“友達”となったのか? そして、親しい間柄だからこそできた佐藤の役作りの手法とは? 映画『何者』を通して2人の関係性に迫った。
佐藤さんには「朝井はいい奴だ」と胸を張って言ってほしいのですが…(朝井)
――佐藤さんと朝井さんは映画『何者』では主演と原作者という関係ですが、以前から親交が深かったそうですね。
朝井 はい。4年ほど前のたこ焼きパーティーで出会いました。私、たこ焼きを焼くのがうまいんです。その日も友達の家で焼いていたら、友達の友達として佐藤さんがふらっと現れたんです。その時はまさか佐藤さんが来るなんて知らなかったのでとても驚いたのですが、あくまで“友達”として来ているのに芸能人として扱うのは失礼かなと思って、平静を装って「お酒、何か飲む?」と話し掛けたりしていました。
――そこからだんだんと親しくなっていったと。
朝井 佐藤さんがオセロにハマっていると聞いたので勝負をしたら、6-58で負けたりしました。彼、本当に強いんですよ。なので、私の周囲にいるオセロの強い作家と対戦させたりして。
佐藤 作家界で一番強いと自負されている方も倒して、作家界は僕が制覇しました(笑)。
朝井 某芥川賞作家も負けたので、直木芥川完全制覇ですね。あとは人狼ゲームをしたり。
――そして今ではすっかり“友達”になったわけですね。
佐藤 “友達”ですね。ただ、「朝井くんは才能がある奴だ」とは言えますが、まだ胸を張って「朝井くんはいい奴だ」とは言えないかな(笑)。
朝井 どうして? 早く胸を張って言ってよ! それはきっと“作家”というフィルターを通して私を見ているからじゃないかな。
佐藤 違うと思います。
朝井 違ってない!!
――親しくなることで見えてきたお互いの性格や個性は?
佐藤 朝井くんは(初対面の時から)基本は変わらないですね。ずっとこの調子なので、キャラのブレない人だなと思っています。あと、すごくよくしゃべる人だなぁ、と(笑)。
朝井 しゃべらないと死んじゃうんです。ラジオを聴いて育ってきたこともあって、人は途切れなくしゃべるものだという感覚があるんですよ。
佐藤 大阪のおばちゃんみたいな感覚だね(笑)。
朝井 佐藤さんは、自分のことを芸能界の人だとあまり思っていない節があります。彼はリアル脱出ゲームも好きでよく行くらしいのですが、一般の方に混じっても「健です」と自己紹介して、みんな「知ってるよ!」と思いつつ誰もツッコめない妙な空気になるそうです。私から見たらどう見ても芸能界の人なのに、それをあまり出さないのが彼のいいところなのかなと思います。
拓人を演じる上で、朝井くんをひとつの拠り所にしました(佐藤)
――そんなお二人が、映画『何者』で仕事上でも接点を持ちました。
朝井 ついに利害関係を結んでしまいましたね……。
――佐藤さんが演じる主人公の拓人は、まだ自分が“何者”なのかつかめていないキャラクターです。個性が希薄なだけに、役作りも難しかったのではないでしょうか。
佐藤 そうですね。俳優として、自分ではない別の誰かになるという作業はとても難しいのですが、今回は僕が拓人のキャラクター像を100%把握しきれなかったので余計に難しかったんです。拓人がこのセリフを言う時どんな顔をするんだろう、と考えても分からなかったんですよね。そこで、拓人のキャラクターを朝井くんに寄せることにしました。
――“拓人=朝井リョウ”だと。
佐藤 決して“朝井リョウそのもの”ではありませんが、近いイメージとして朝井くんをひとつの拠り所とすることで、とても演技はしやすくなりました。朝井くんだったらどんな顔をするんだろう、と考えれば想像しやすいですからね。
――寄せる、とは具体的にはどのような部分でしょう?
佐藤 まずは髪です。朝井くんが行っている美容室に行って、朝井くんを担当している美容師さんに髪を切ってもらいました。朝井くんって、髪を切られるのが恥ずかしいらしくて。
朝井 そうなんですよ。
佐藤 どうして?と聞いたら、「髪を切る行為は自分をより良く見せようとする行為。私なんかが自分をより良く見せようとしていることが恥ずかしい」と(笑)。
朝井 変わっていく自分を見たくないから、ずっと目も閉じています。しかも、その美容師さんとは2年くらい会話をしていなくて。
佐藤 コミュニケーションを遮断しているから、自分が朝井リョウだとはもちろん言っていないし、朝井くんも知られていないと思っていたんですよ。でも、そこに僕が登場するわけです。美容師さんに朝井くんの写真を見せて「この人、知ってますか?」と。
朝井 ひどいですよね! 刑事のやり口!
佐藤 そうしたら「もちろん知っています」って。朝井リョウという直木賞作家だということも全部知っていたんです(笑)。さらにその美容師さんは、朝井くんがテレビや雑誌に出た時はチェックをしていて、「髪型セットしづらくないかなあと心配してたんですけど、聞けなくて…」とまで言っていて…。
朝井 それを聞いて「なんていい人なんだ!」と感動して。だから次に私が髪を切りに行った時はそのことを言おうかなと思ったのですが、美容師さんもプロで、「そういえば以前佐藤健さんが来られて…」みたいな話や素振りは一切見せなかったんですよ。何事もなかったかのように接してくれた結果、また一言もしゃべれず振り出しに戻ってしまいました。結果、何もなかったみたいになってる。
佐藤 どうしてそこまで行ったのに言わないかなぁ。朝井くん、面白いよね(笑)。