綾瀬はるか主演の大河ファンタジー『精霊の守り人Ⅱ 悲しき破壊神』(NHK土曜夜9時)がいよいよ3月25日に最終回を迎える。上橋菜穂子の描く異世界ファンタジー小説を実写化した意欲的なドラマで、イマジネーション豊かな美術、衣裳、小道具やアクション、CGなどビジュアルにまず目がいくが、音にも凝っていて、ふだん耳にしたことがないような独特の音が鳴っている。
それはほぼ人の声でできていた。というと、宮﨑駿監督作『風立ちぬ』のSE(人の声を使って音を作っていた)を思い出す人もいると思うが、『精霊の守り人Ⅱ』ではほぼ一人の人物が異界に漂う多様な音を担当していたと知ってびっくり。
声の主はナレーションも担当している山崎阿弥。
ちょっと不安定な感じもするその音程が、妙に気になる。彼女は俳優でも声優でもなく、声を使ったアート活動を行っている人だった。この声の表現の凄さに爆笑問題の太田光が驚いたとラジオ番組で語るほど、にわかに注目を集めている山崎さんに『精霊の守り人Ⅱ』の音に関する秘密を聞いてみた。
耳をすませてほしい。この世界は目に見えるものだけが生きているのではないから
──『精霊の守り人Ⅱ』に参加したきっかけを教えてください。
2年くらい前に、『精霊の守り人Ⅱ 悲しき破壊神』のキービジュアルを創っている制作会社〈ドローイングアンドマニュアル〉のトップの菱川勢一さんが、私の歌っているところをたまたま見て下さって、その時携わっていたプロジェクトの音に採用してくれました。その作品(全編声だけで作られたプロジェクションマッピング)の上映を金沢まで観に行ったとき、『精霊の守り人Ⅱ』のメイン演出家である加藤拓さん((『八重の桜』なども担当)にお会いしました。昨年の夏、加藤さんから連絡が来て『精霊の守り人Ⅱ』の文化芸能考証の友吉鶴心さんが作った劇中歌の歌い手を探していると相談されたんです。当初は、どちらかというと歌の方がメインで、ナレーションの話はあとから頂きました。
──初めて録音したときの様子を教えてください。
まず友吉さんの作った歌を、シンプルに歌ったり、悲しみと苦しさが入り混じるような歌い方をしたり、幼い子供がお母さんを求めるかのような歌い方をしたり、呼吸音だけで風のように歌ったり、様々な形を試しました。
演出面のリクエストと私からの提案で、イメージを出し合って進めていきました。歌を一通り試した後にナレーション録音に移ったのですが、録音の聞き返しの際、音響さんが「他の声をナレーションの下に敷くと面白いのではないか」と提案してくれました。歌の録音の際に録っておいた音色(声)のバリエーションを、即座に編集して多重的に構成し、そこにナレーションを乗せてみてくれたんです。すると、ナレーションの声が蠢いているものたちと一緒にささやいているように聞こえて「おお!」っと喜んでもらえました。
加藤さんが当初から「『ファンタジー』を『まだ誰も見たことも聞いたこともないもの』と定義してみよう」とおっしゃっていたのですが、この録音に立ち会っていたスタッフの方々が、加藤さんのその言葉を理解できたと言ってくださいました。その後さらにアスラ(鈴木梨央)の中に宿る神の力が発動するときの声も音響さんから追加依頼されて嬉しかったです。でも、その音も「誰も聞いたことがない」ので最初はどう発声すればよいか全く分かりませんでした。最終的にたどり着いた声は、雑巾みたいに骨と筋肉をしぼって発声しなければならないので心身共に壊れそうになりました(笑)
──第1話、最初のナレーションの発声に驚きました。独特で、たいてい最初の音を強く言うものかと思っていましたが、頭の音をふわっとしていて。
「この世界は」と、これから始まる時間や空間の、響きのようなものを伝えたかったからだと思います。その響きが意味として伝わるよりも、おぼろげながらもそこに確実に存在していることを感じてほしくて、声に身体性を持たせようと思いました。言葉から連想される動きやポーズをつけて発声したんです。マイクの前で、踊るように、手話で伝えるように発声しました。主人公の名前「バルサ」も一文字一文字に人格を持たせて発声しています。「バ」「ル」「サ」という独立した3つの人格が集まって一人の人間を形成しているようなイメージで。
聞き取りにくいという意見もあるようですが、そっと耳をすませてもらえたらな、と思います。すると、“この世界は目に見えるものだけが生きているのではない”という『精霊の守り人』の重要な世界観のひとつが聞こえてくると思うんです。先日ツイッターで、私の声は聞き取りにくいんだけど、テレビの音量を上げるのは違う気がする、と、普通の音量のまま集中して聴いてくださっている方の書き込みを目にして嬉しくなりました。