様々な事件や出会いを糧にするバガボンドたち
──『彼女がその名を知らない鳥たち』公開時のotocotoインタビューでは、思い出の本として吉川英治の「宮本武蔵」を挙げていたことが印象に残っています。
母親が読書家で、家に本が多かったんです。それで僕も読書好きになり、「宮本武蔵」も家にあったので中学のときに読破しましたね。
──お母さんの影響だったんですね。てっきり、お父さんの読み終えた「宮本武蔵」」白石監督も読んだものだと思っていました。
いえ、僕が小学2年生のときに両親は離婚したので、家にあった「宮本武蔵」は母が読んだものだと思います。両親が離婚した頃の思い出は、『マンドリンの女』(18年)という短編映画にしています。
──いろんなライバルや師匠と出会うことで、暴れ者の武蔵は剣豪へと成長を遂げていく。バガボンド(放浪者)という意味では『麻雀放浪記』の坊や哲と共通するものがありますね。
あぁ、確かにそれはあるかもしれません。『麻雀放浪記2020』の坊や哲はブレないキャラクターになってはいますが、僕が撮った『孤狼の血』や『止められるか、俺たちを』は主人公が師匠的な存在と出会って、何かを受け継ぐ物語になっていますし、『日本で一番悪い奴ら』は間違った師匠に学んだために主人公は誤った道へ進むことになります。もしかしたら、思春期の頃に読んだ「宮本武蔵」の影響がどこかあるのかもしれません。「宮本武蔵」は中学生のときに一度読んだきりなので、改めてじっくり読み直してみたいですね。
取材・文/長野辰次
撮影/名児耶洋
白石和彌(しらいし・かずや)
1974年北海道旭川市生まれ。中村幻児主宰の映像塾に通い、若松孝二監督の現場に助監督として参加するようになる。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(09年)で監督デビュー。監督第2作『凶悪』(13年)が注目を集め、人気監督に。『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)と『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』(18年)で2年連続ブルーリボン賞監督賞を受賞。今村正、市川崑に続く快挙となった。若き日の若松孝二を井浦新が演じた『止められるか、俺たちを』は4月2日にDVDがリリース。公開待機作に香取慎吾主演の『凪待ち』などがある。
『麻雀放浪記2020』
主人公・坊や哲がいるのは、2020年の“未来”。なぜ?人口は減少し、労働はAI(人口知能)に取って代わられ、街には失業者と老人があふれている…。そしてそこは“東京オリンピック”が中止となった未来だった… 嘘か?真か!?1945年の“戦後”からやってきたという坊や哲が見る、驚愕の世界。その時、思わぬ状況で立ちはだかるゲーム“麻雀”での死闘とは!?
出演:斎藤工
もも(チャラン・ポ・ランタン) ベッキー 的場浩司 岡崎体育
ピエール瀧 音尾琢真 村杉蝉之介
伊武雅刀 矢島健一 吉澤健 堀内正美 小松政夫
竹中直人
原案:阿佐田哲也「麻雀放浪記」(文春文庫刊)
監督:白石和彌
脚本:佐藤佐吉 渡部亮平 白石和彌 プロット協力:片山まさゆき
主題歌:CHAI「Feel the BEAT」(Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:牛尾憲輔
企画:アスミック・エース 制作:シネバザール
配給:東映
2019年4月5日(金)全国ロードショー
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
公式サイト:mahjongg2020.jp
「麻雀放浪記」阿佐田哲也/文春文庫刊
敗戦直後の焼け野原東京のドヤ街で博打を打ち続ける主人公、坊や哲。さまざまな勝負師と激闘を繰り広げていく物語。四部作でピカレスクロマンの傑作として、読み継がれている。また1984年に和田誠が初監督、真田広之が主演で第一部・青春篇が完全映画化された。大竹しのぶ、加賀まりこ、鹿賀丈史など豪華出演陣に加え、モノクローム手法などの演出で、各方面で絶賛された。名作の呼び声高い作品である。
「宮本武蔵」吉川英治/講談社
関ヶ原の合戦を辛うじて生き延びた若者・武蔵が剣客として腕を磨き、終生のライバル・佐々木小次郎と巌流島で決着をつけるまでを描いた大ロングセラー小説。吉川英治が執筆したのは戦前だが、日本人が現代も抱く剣豪・宮本武蔵のイメージは、この小説によって生み出されたもの。野生児のように育った武蔵は剣の世界で名を上げようとする中、沢庵和尚ら様々な人々と出逢い、人間的に成長していく姿がエネルギッシュに活写されている。井上雄彦の人気コミック『バガボンド』の原作としても有名だ。