Mar 22, 2019 interview

『麻雀放浪記2020』公開決定!白石和彌監督が語る、映画のスキャンダリズムと恩人との映画放浪記

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ダメ人間の純愛を描いた『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)や東映ヤクザ映画の熱気を現代に甦らせた『孤狼の血』(18年)が高い評価を得て、2年連続でブルーリボン賞監督賞を受賞した白石和彌監督。今、日本映画界で最も旬な映画監督である。だが、東映配給の新作『麻雀放浪記2020』は4月5日(金)公開を前に炎上する騒ぎとなっている。マスコミ試写はいっさいしないという『麻雀放浪記2020』は何が問題となっているのか。白石監督がその真相と巨匠たちから学んだ映画が持つスキャンダリズムについて語った。

(※インタビューは、2月19日に行ったものです)

 

80年代の名作映画が社会風刺のブラックコメディに

 

2月18日の毎日新聞に「東映新作映画 政治家圧力? 実は……」という見出しの記事が掲載された。斎藤工主演作『麻雀放浪記2020』は東京五輪中止という物語設定となっており、そのことに自民党国会議員がクレームをつけて公開危機説が流れたという記事内容だ。だが実際には議員からの圧力はなく、「炎上商法」ではないかという声も上がったことを同記事は伝えている。マスコミ試写が行なわれていないため、真偽のほどを確かめることもできない。デビュー以降、毎回のように問題作を放っている白石監督は、今回の件をどのように認識しているのだろうか。

──『麻雀放浪記2020』の宣伝をめぐって炎上騒ぎが起きましたが、白石監督はどのように受け止めているんでしょうか?

エッジの効いた作品が完成したので、思い切ったことがやれるといいよねと東映宣伝部とは話していたんです。今はこんな宣伝をすれば必ずヒットするという方法はありません。決まった正解がない時代です。とはいえ、それでマスコミ試写を一度もやらないというのは、どうかなと僕は思いました。もちろん僕が撮った映画ですから、宣伝のやり方にも僕は口を挟みます。でも、最終的に決めるのは配給会社の宣伝部なわけです。国会議員向けの試写を一度やるという情報は耳にしたんですが、詳細を把握できずにいたところ、試写を観たある議員のコメントの一部が切り取られて意外な形で広まっていった……というのが僕の認識です。宣伝方法に問題は若干あったかもしれませんが、わざわざ炎上させる意図はなかったと思います。

 

 

──実録犯罪映画『凶悪』(13年)や『日本で一番悪い奴ら』(16年)を撮った白石監督ですから、『麻雀放浪記2020』もかなりヤバい映画に違いないというバイアスが騒ぎを招いた?

どうなんでしょうか(苦笑)。2020年東京オリンピックが中止、という映画の設定ばかりがクローズアップされてしまったみたいですね。本当はみなさんがイメージしているよりも、もっとライトなコメディなんです。もちろん、ブラックな要素は入っています。社会風刺はかなり盛り込んでいます。でも、もし僕が撮ったことで『麻雀放浪記2020』はヘビーな作品なんだろうと思われているとしたら、公開後にもう一度炎上するでしょうね。「なんだ、騒がれていた内容と違うじゃないか」と(笑)。

 

今、なぜ『麻雀放浪記』なのか?

 

──和田誠監督の『麻雀放浪記』(84年)は名作との誉れが高い作品。白石監督が新たに『麻雀放浪記』を撮ることになった経緯を教えてください。

『日本で一番悪い奴ら』の初号試写の頃、アスミック・エースのプロデューサーから「白石監督は麻雀できますか?」と尋ねられたんです。「できるけど、俺と麻雀したいのかな?」と思っていたら、そのプロデューサーは阿佐田哲也さんの小説『麻雀放浪記』全4巻を取り出し、映画化したいと言うわけです。「和田さんが撮った邦画史上屈指の名作があるのに」「このプロデューサーはバカなのかな?」とそのときは思いました(笑)。でも読まずに断るのも失礼だなと、全4巻を読み通しました。

 

 

──和田監督版『麻雀放浪記』は第1巻「青春編」の映画化でした。第2巻「風雲編」以降を映画化しようと考えた?

いや、予算的に戦後の雰囲気を全編にわたって再現することは不可能だったんです。それで「風雲編」で主人公の坊や哲は東京から締め出されて大阪に行くことになるんですが、その大阪行きの夜行列車がなぜかバクチ列車になっているというファンタジックな設定を考えたんです。ポン・ジュノ監督のSF映画『スノーピアサー』(13)のギャンブル版です。これなら、やれるかなと(笑)。当然ながらそのアイデアは却下されましたが、今度は製作会社シネバザールのプロデューサーがタイムスリップするというおかしな設定を持ち出したわけです。断るつもりだったのに、話がどんどん変な方向へと転がっていった(笑)。

──その頃には、白石監督の頭の中で坊や哲が勝手に動き始めていたんですね。

そうですね。最初は今の時代に『麻雀放浪記』をもう一度映画にするなんて……と思っていたんですが、昭和のバクチ打ちが2020年にタイムスリップして、管理社会に居心地の悪さを感じることになる。現代社会の問題点をあぶり出す、最強のアウトローとして坊や哲を描くことができるんじゃないかと思い始めてしまったんです。和田さんが撮った『麻雀放浪記』のファンからお叱りを受けることはすでに覚悟していますが、やるなら徹底して振り切ってやろうと思いました。企画を考えていたのは東京五輪が決まった頃でしたし、北朝鮮のロケット問題もありました。そういった社会問題を絡めたブラックコメディに仕上げたつもりです。ちなみに坊や哲は「九蓮宝燈」を振り込むことでタイムスリップするんですが、現代では全自動麻雀卓になっているのでもう一度「九蓮宝燈」を振り込むことが難しいという設定です(笑)。