『ガンダム』から学んだ“宇宙的恋愛”
――“岩井美学”とも言われる唯一無二の世界観で、ファンを魅了しています。そんな岩井監督にとって、影響を受けたと感じるエンタメ作品を教えてください。
影響を受けたと感じる作品はたくさんあります。意外だと思われるかなというものだと、『機動戦士ガンダム』です。『機動戦士ガンダム』はロボットアニメとしてではなく、ラブストーリーとして観た時に、ものすごくじれったい物語なんですよね。高校生の時に観て、「こんなラブストーリーがあっていいのか」と衝撃を受けました。
――とても意外です。じれったいと思われたのは、どのような点でしょうか。
まずヒロインだったはずのフラウ・ボゥという女の子が、アムロの友人と付き合うことになってしまったり。「ヒロインだったよな?」と思っているうちに、ヒロインから下落していく。こんなことがあっていいのかと思いました。そしてララァという女の子が、アムロとはお互いにきちんと認識していないぐらいしか会っていないのに、宇宙空間で再会して壮大なラブストーリーになっていったり。最後には、「恋愛感情なんてなかったはずだ」と思っていたセイラさんという女の子がヒロインになっていったり…。子どもながらに持っていた、「ラブストーリーは最初から相手が決まっているものだ」という固定概念が総崩れになりました(笑)。「こんなことがあってもいいんだ、ラブストーリーはどこからでも成立するものなんだ」と衝撃を受けたわけですが、それって自分が物語やラブストーリーを考える時に、やっぱり参考になっているんですよね。
――たしかに『ラストレター』でも、鏡史郎がマスクをして顔も見えない未咲に一目惚れするなど、「こんなこともあるのか!」という“恋の不思議”が描かれています。
そうなんです。「顔も見ていないじゃないか、ありえないだろう」と(笑)。そういうアイデアを思いつくと、すごく楽しいんですよね。また鏡史郎は一途にマスクをしたヒロインを追いかけているかと思うと、その妹とも楽しい時間を過ごしていたりもする。「ここにも恋愛劇が見つけられる」という物語にもなっています。時々、物語を書く時に「こちらがララァで、こっちがフラウ・ボゥか」となぞらえている時もありますよ。宇宙が舞台の物語でしたが、恋愛も宇宙的。ああいった化学反応は、ほかのどの作品においても再会したことがありません。『機動戦士ガンダム』を観ると、創作することは本当に楽しいものだなと感じます。
取材・文/成田おり枝
撮影/名児耶洋
1963年、仙台市生まれ。
1988年に桑田佳祐『いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)』PVをディレクション、プロとしてスタート。『見知らぬ我が子』(91年)でドラマ初演出。93年、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』がテレビ作品にも関わらず日本映画監督協会新人賞に輝く。中編『undo』(94年)で映画監督デビュー。初長編『Love Letter』(95年)は社会現象と化し、96年に『スワロウテイル』公開。以降、ショートムービー、ドキュメンタリー、アメリカ映画、アニメーションと活躍の場を広げ、“岩井美学”と呼ばれる世界観で観る者を魅了している。
裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会することに。勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。そのうちのひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出をたどりだす。ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、そして過去と現在、心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、時を超えて動かしていく――。
監督・脚本・編集:岩井俊二
原作:岩井俊二『ラストレター』(文春文庫刊)
出演:松たか子 広瀬すず 庵野秀明 森七菜 小室等 水越けいこ 木内みどり 鈴木慶一 / 豊川悦司 中山美穂 神木隆之介 福山雅治
音楽:小林武史
主題歌:森七菜『カエルノウタ』(Sony Music Labels)
配給:東宝
公開中
©2020「ラストレター」製作委員会
公式サイト:https://last-letter-movie.jp/