福山雅治と神木隆之介は似ている!?
――高校時代の鏡史郎役を神木隆之介さんが演じています。二人一役を演じるうえで、神木さんは福山さんについてかなり研究されたそうです。
二人は、似ていなくはないなと思っていました。絶対に噛み合わせはいいだろうと思っていたので、何も心配はしていませんでした。二人の芝居も、本当にすばらしかった。演出家というと、“役者さんにいろいろと演技をつけている”というイメージがあると思うんですが、うちの現場は、“僕が考えた物語を役者さんが体現していく”という感じで。基本、すべてお任せしています。その俳優さんには親御さんや先祖がいて、その姿、形、魂、心を持って、生まれてきている。ほかの誰でもないわけです。僕は、俳優さんにその身をもって役を体現し、身をもって体験してほしい。そのことに意味がある。今回はそれをしっかりできる人たちが集まってくれたので、本当にありがたかったです。
――主人公の裕里を演じる松たか子さんとは、『四月物語』(98年)以来、映画では約21年ぶりのタッグとなりました。“時の流れ”もテーマとなる本作ですが、『四月物語』で上京したての女子大生の不安と期待をみずみずしく演じた松さんが、今回は母親役として登場することも“時の流れ”を感じさせます。
そうですね。でも松さんは、見た目があまり変わらないので(笑)。自分のなかでは、『四月物語』の延長線上のようなところもあるんです。裕里は、どこか『四月物語』の女性とも性格的にもよく似ている気がしていて。僕の描く女性像の、典型的なパターンなのかもしれません。ちょっとした嘘をつく女の子だったり、誰にも言えない想いを心に秘めていたり。『花とアリス』(04年)の花も、嘘つきですね。今回の裕里も、子どものころも小さな嘘をつく女の子で、大人になっても同窓会に行って嘘をついてしまう(笑)。僕が描いてきたような女性を松さんが演じてくれたので、自然と見守っていられたように思います。
――プロデューサーの川村元気さんは、本作を“岩井俊二監督のベスト盤”と表現されています。観た人のなかには“原点にして集大成”と言う人もいますが、ご自身の手応えはいかがでしょうか。
僕はあくまでも監督なので、自分の集大成を作ろうというよりも、きちんと物語として成立する映画を作らなければいけないと、その想いだけでした。手を離してもきちんと立っていられるような作品になるだろうか。ドミノ倒しで言えば、きちんと最後までたどり着くだろうか…と。これはつねにそうなんですが、いつも心配との闘いです。そうやって前に進んでいくしかないんだと思っています。