May 11, 2021 interview

映画『くれなずめ』【松居大悟監督インタビュー】成田凌くんに吉尾を生きてほしかった

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—撮り方という点で、物語が始まると、突如舞台上に自分が飛び込んだような、6人の内輪の中にいるような感覚で物語が始まりました。最初の観客の掴み方というのは意識されたところでしたか。

披露宴の下見で久しぶりに再会して、そこからカラオケボックスまでの流れにいくところで、見ている側の緊張感を持続させたいなと思っていました。いわゆる始まる感じ、というのが僕は好きではなくて。真っ暗な中でふわっとスポットが当たって、いつ映画が始まったんだろうというところから、電気がついて明るくなっていく。さらに、さりげない長回しで、見ている人がこの画角の中で自分を見つけられるように、広く6人を捉えながらというのを意識して組み立てていきました。

「くれなずめ」
屋台での撮影の一コマ(メイキング風景)

—演劇では監督自身が欽一を演じられていて、それを今回は高良健吾さんが演じていたり、演劇とはまた違う役者さんが演じるというのは、新鮮に感じられましたか。

僕はこういう役のイメージだからこうしてって絶対言わないようにしていて、演じる人がやるからそれになるっていうのを思っています。なので、舞台のことは全く考えていませんでしたし、やはり教えてもらうことが多かったですね。お芝居をする中で、例えば、屋台で欽一と吉尾が喧嘩するときに、吉尾ってこんな表情になるんだなとかを僕もわからなかったんで、つくりながら結構教えてもらいました。

—物語中盤、欽一の回想明けで、欽一が「命を爆発させてんのか?」と鼓舞するシーンがありました。「アイスと雨音」でも同じようなことを仰っていた記憶があったので、監督は命に例えられて演出されることが多いのかなと思ったんですが。

確かに『アイスと雨音』とでも言ってますね。「命の爆発」とか「生きるだけだろ」とか。

—あと、「大きな生命体を作りたいんだ」とも、監督自身の役柄で言ってました。

(笑)なんか好きなんですよね。整ったものが好きじゃなくて、「こうやって動いたら綺麗に見える」っていうよりも、なんか生きてるんだから理屈にならないものを作品にしたいと思っていて、それがこう「命を爆発」とか「生きるだけだ」とかの言葉に頼ってしまっている気がします。あとは吉尾も僕も岡本太郎さんが好きで、だから割と爆発系の言葉が好きなんです。

—劇中にある6人のわちゃわちゃした感じを現在は現実にはしにくい状況で、だからこそ多くの人の心に入り込む、ある意味、時代性を感じる部分がありました。そこまで意識されていないようにも見えて、無意識的に意識しているようにも感じます。

『くれなずめ』に関しては、時代性を全く意識してなくて、あの頃止まった時間をもう一度見つめなおすという話で。思い出すのは本当にどうでもいい無価値な時間だったな、でもそれが今思うとちょっといい時間だったなって、そういうつもりでつくっています。社会を描くという点において言うと、僕は、すごく小さくて個人的であればあるほど社会を描けると思ってるので、できるだけ視野を広く持たないようにしています。

わちゃわちゃ感の伝わる予告編動画

—監督自身が役者もやられていることで、監督の立場になって活かされる視点や経験はありますか。

多分お芝居に限らず、あると思います。でもやっぱり、役者に気を使わないというのは役者をやっているからできるものだと思いますね。気を使ってもいいもの出てこないんで。理由がわかんなくても、もう一回やってほしいときはもう一回やってって言えますし。

—監督は、ご自身の脚本で映画を撮られることと、他の方の脚本で映画を撮られることと、両方ご経験されていますね。それぞれのケースで作品への向き合い方に違いはありますか。

できるだけ他の人が書かれた本でやりたいんですよ。というのは、考えたいから。「どうやって撮ったらいいんだ」とか、「これってどうイメージしたらいいんだろう」っていうのを広げられる。脚本家の方の正義と僕の正義があって、それが映画をつくっている中ですごく幅が広がってくれるんですけど、自分が書く場合は、やはり書きながら「こう撮るためにこう書こう」っていうのが結構出てきちゃうんです。それがいいときもあるんですけど、結構邪魔しちゃうときもある。でも、なまじ書くから、ちょっとプロット書いてみますとか言って、結局脚本を書く流れになっちゃうので考えようだなと(笑)。なので、自分で脚本書いているときは「破綻させよう」「監督の自分を困らせよう」と思って書いてますね。

—ご自身が脚本を書かれる作品は風変わりでエッジの効いている作品にあえてしている印象を持っています。

いやいや。『君が君で君だ』とかは、愛の向こう側が絶対あるって、めちゃくちゃ伝わるように作ったんですけど全然伝わってなくて…(笑)ポップなつもりで作ったんですけど、肩に力を入れすぎてしまったのかもしれません。

—やはり作品をつくられるごとに反省がひとつは出てくるものですか。

もう一つどころじゃないんですね。だからやめられないです。

「くれなずめ」
披露宴下見の長回しシーンを撮影している監督たち

—少し前までは監督の作品には思春期の少年少女の物語が多かった印象です。今作のように20代後半から30代に差し掛かるような世代を描くのは新鮮に感じましたが、監督自身も年齢や経験を重ねてきて描きたいものに変化があったのでしょうか。

今まで少年少女を多く描いていたのは、本当の意味での少年少女のための映画が少ないと感じていたんですよね。大人のための少年少女映画というのは多いのですが。今回、同性の同世代というのを、自分の内側にある作品だから描けるとも思いましたし、この世代のための映画を作りたかった、というのもありますね。

—最近は活躍著しく『バイプレイヤーズ』などのテレビ・映画作品も監督されています。お仕事の幅も広がりながら、お仕事で付き合う方の年齢も幅広くなってきたと思います。そういう変化はご自身の価値観やお仕事の仕方に影響ありますか。

関わる人が変わると取り組む姿勢やつくる姿勢が変わるんで、それは人によるんですけども…一番大きいのはそれこそバイプレイヤーズの前までは、できるだけ演出プランを突き詰めて現場に挑むっていうやり方だったんです。けど、バイプレイヤーズではケースプランをいかに捨てるか、用意したものをいかに捨てて現場で身軽になるか、みたいなことを知ったので、今は割と関わる人のスタンスとか考え方とかで、作品が変わっていくのを身軽にやれてるような気がします。

—監督は多岐にわたるジャンルのお仕事をされていて、すごく柔軟性があってチャレンジングな方に見えます。

この仕事をするようになってからは、同じことは絶対にしたくないのと、自分がワクワクすることに取り組みたいっていうのがあります。「どうやるの?これ」と思うようなやったことのないタイプの仕事とかに対してモチベーションがすごく上がるし、そこで見たことないアプローチで作品に取り組むことに対してはやっぱり一番燃えます。逆に「こうすればいい」みたいな経験則だったり、理屈で考えられることは挑んでみても、結局なくなったり…多分熱意が足りなくて。

—おそらくotocotoには監督と同世代の読者も多いと思います。最後に、ぜひメッセージをください。

歳を重ねれば重ねるほど、別れが増えていったりしますけど、20代は結構思い返さずに流れていって、30代になってふと会えなくなった友達のことを思うと、なかったことにしてはいけないそいつと過ごした時間というのがあって。それによって今の自分があると思うんで、会えなくなった友達がいる方はぜひ友達に会いに来てほしいし、そうでない方も「振り返ってばかりじゃいられない」とか言われることもあるけど、「振り返っていいじゃん」「振り返りまくろうぜ」って、そういう想いで気軽に映画館に来てもらえたら嬉しいなと思います。

(インタビュー・文/オガサワラ ユウスケ )

松居大悟監督
松居大悟監督[プロフィール]

1985年11月2日生まれ。福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を担う。2012年、『アフロ田中』で長編映画初監督。その後『スイートプールサイド』(14)、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)、『君が君で君だ』(18)、『#ハンド全力』(20)など。枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。20年に自身初の小説『またね家族』を上梓。21年1月クールのテレビ東京『バイプレイヤーズ』新シリーズと劇場版も手がける。

映画『くれなずめ』

監督・脚本:松居大悟
出演:成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
配給・宣伝:東京テアトル
制作プロダクション:UNITED PRODUCTIONS 
特別協力:エレファントハウス 
製作:「くれなずめ」製作委員会(UNITED PRODUCTIONS ハピネット 東京テアトル Fly Free Entertainment  カラーバード)
©2020「くれなずめ」製作委員会
5/12水 テアトル新宿ほか全国公開