『川っぺりムコリッタ』を語るための言葉とは?
―― 完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
ムロ 同じ日に2人で一緒に試写を観たんですよ。だけど、観終わって2人とも黙ったんです。この作品をどう言語化するか。
―― 引き込まれて観ることが出来るんですが、どんな映画かと言葉にするのは難しいですね。
松山 富山でもフィルムコミッションの方に「どんな映画撮ってるの?」って訊かれたんですよ。答えられないんですよね。僕は、「塩辛工場で働いてる青年の話です」って言うしかなかったんですけど(笑)。
ムロ 観ている間の心地良さを、どう言葉にするかというのを試写のあとで、考えていたよね。どうやって言葉にして表したらいいんでしょうね?
松山 基本的には自分が出ている作品は、僕にとって確認作業でしかないので、映画自体の評価みたいなことって出来ないんですよね。なので、良いとか悪いとかではないんですけど、ただやっぱり生きる生と死の間って言うんですかね。そういうものは、やっぱりどうしても考えさせられる題材になっているなと思いました。
ムロ 荻上さんがそれを言いたいかどうかは全く別ですけど、映画のなかで僕と松山くんは隣の部屋同士ですけど、例えば東京だったら、隣の部屋の方との関係性は他人で良いという考え方もある。コロナ禍で撮ったから、人と人のつながりや関係を改めて考えてもいいんじゃないかというふうにも捉えられますよね。
―― この2年は、“生と死”が身近に感じられる時代でもあっただけに、『川っぺりムコリッタ』は、今こそ観られてほしい映画になっていますね。
松山 撮影した2年前は、悲しいニュースがいくつかあった時期でもあったんですよ。だから、この撮影中って一番そういうものに引っ張られていたし、意識していて。しかもこういう題材をやっていたので。それで僕が一番衝撃を受けたのは、この作品のムロさんって、僕が今まで見てきたムロさんじゃないんですよ。
面白いムロさんは存在するんだけど、めちゃくちゃ悲壮感があるというか、脆そうな、崩れちゃうんじゃないかっていう、そういう部分をすごく感じたんですよね。それは時代なのかもしれないし、タイミングなのかもしれない。こんなに崩れちゃいそうなムロさんは初めて見たというか。それは本当に衝撃でした。
取材・文 / 吉田伊知郎
写真 / 藤本礼奈
ヘアメイク・スタイリスト / 【松山ケンイチ】勇見勝彦(THYMON Inc.)・五十嵐堂寿(Igarashi Takahisa)、【ムロツヨシ】池田真希(Ikeda Maki)・森川雅代(Morikawa Masayo)
山田は、北陸の小さな街で、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。ある日、隣の部屋の住人・島田が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変する。できるだけ人と関わらず、ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、夫を亡くした大家の南、息子と2人暮らしで墓石を販売する溝口といった、ハイツムコリッタの住人たちと関わりを持ってしまい‥‥。図々しいけど、温かいアパートの住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつほぐされていく。
監督・脚本:荻上直子
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、北村光授、松島羽那、柄本佑、田中美佐子 / 薬師丸ひろ子、笹野高史 / 緒形直人、吉岡秀隆
配給:KADOKAWA
© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会
公開中
公式サイト kawa-movie.jp