Sep 16, 2022 interview

生と死の間で――『川っぺりムコリッタ』主演の松山ケンイチとムロツヨシが語る人の距離

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名もなき町のイカの塩辛工場で働き始めた山田たけし(松山ケンイチ)は、紹介されたアパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。誰とも関わらず、ささやかに食べることさえできれば良いと思っていた山田の生活は、隣人の島田幸三(ムロツヨシ)の乱入によって、これまでに感じたことのない“つながり”が生まれる。

『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは』の荻上直子監督による本作は、“食”を介して、今では希薄になった人と人とのつながりを描くハートウォーミングな1本。夫を亡くし、「ハイツムコリッタ」を切り盛りする大家・南詩織に満島ひかり、息子を連れて墓石販売を行う溝口健一に吉岡秀隆、さらに緒形直人、柄本佑、江口のりこ、田中美佐子ら、意表を突いたキャストが集結した本作について、主演の松山ケンイチさんとムロツヨシさんにうかがいました。

食べること、演じること

―― この映画は “食”へのこだわりが際立っていますが、演じる上で “食べる”という演技は難しいものですか?

松山 食べながらセリフを喋らないといけないので、テストの段階でご飯の量をどうするかとか話してましたね。

ムロ それは話しあってた。自分の場合はモリモリ食べる役なので、この世界でよく言う「つながり」というものを全く無視した食べ方をしましたけどね。あとはなんとかしてくれるだろうと(笑)。

―― ムロさんは、その後に台詞があろうが、どんどん口の中にご飯を入れていましたね。

ムロ 僕の場合は結構キャラがはっきりしていて、ズケズケと他人の部屋にあがっていって、ご飯一杯だけと言いながら、おかわりをもらう人間なので、そこはひたすら食べましたね。

松山 そうやって食べていると、味がしないですよね。それどころじゃなくなっちゃう。

ムロ 松山君は、最初のご飯のシーンまで、あまり食べてなかったよね?

松山 キュウリとかトマトをムロさんが持ってきて、「ほら食べな」と言われるまで、僕が演じた山田はお金がなかったから、ほとんど食べてないんですよね。

ムロ そうだった。

松山 本番で、どんな味がするのかなと思って食べてみたら、やっぱり身体が欲してるから、キュウリやトマトが口の中にするする入ってくるんですよ。それはすごい面白いなと思いましたけどね。

―― 食べ物は、『深夜食堂』などのフードスタイリスト飯島奈美さんが手がけたものですね。

松山 美味しそうなんですよ。

ムロ そうそう、飯島さんがやると全部美味しそうなんですよ。すきやきも美味しかった。

ロケ地は生と死を越えた場所

―― 撮影は富山県ですね。お二人が暮らしたアパート「ハイツムコリッタ」は映画に出てくるような空間でしたか?

ムロ そうでした。人通りもなくて。本当にそこに住んでいらっしゃる方もいましたけどね。

松山 黙って外に座っていられるんですよね。木とか、虫だとか、川の音とか、そういうのをじっと見ていて。自然の中にいる感じがして、生きなきゃいけないとか、死んでしまうとか、そういうことも感じない場所でした。

―― タイトルにもなっている「ムコリッタ」は仏教の時間の単位を表す“牟呼栗多”から来ているそうですが、ロケ地は生も死も時間も超越した場所だったわけですね。

松山 境目みたいなところだったような気がしますね。

ムロ 僕は撮影が飛び飛びだったので、2日か3日空いた時があったんですよ。そのときにホテルから出て海へ行ったんです。これは決して制作さんへの文句を言うわけじゃないんですが、僕のホテルの部屋は窓が開かなかった。

―― それは不満を言っているような?

ムロ 文句では決してない。ただ、窓が開かなかった。それにすりガラス過ぎて景色が見えない。ちょっと窓を開けて暮らしたかった(笑)。それで蜃気楼が見えるところへ旅立ったんです。