—今、インタビューをさせて頂いていると暖かな雰囲気ですが、実際撮影されている現場の空気はどのようなものでしょうか?
中井:現場(の空気)ですが、やっぱり明るい現場ではないことが普通ですね。僕がその万俵大介という役っていうのは、唯一話すのは相子ぐらいなもので、全員が怖がる人間なので、なるべく現場でも距離は取るようにしています。ですから、和気あいあいにはならない現場をあえてつくってる、っていうほうが正しいかも知れないです。
内田:私も貴一さんのその空気を感じてましたので、私自身も最初の頃はやっぱりそういう形で距離を取らなければと思っておりましたし、ただ、おっしゃったように貴一さんとお話できるのは相子だけですね。それはちょっと楽しい。みんなの前でちょっと見せつけちゃおうかなっていうような気持ちになったりもして(笑)。
—物語としては、万俵大介と長男鉄平の愛憎入り交じった確執というのが色濃く描かれていきますが、鉄平役の向井理さんとの共演の印象をお聞かせください。
中井:彼(向井理さん)とがっつりお芝居をさせて頂くというのは初めてに近いです。鉄平をつかもうとする彼の気持ち、意気込みというのはすごく大きいものを感じていて、だからほとんど僕は現場ではコミュニケーションをとっていないので、詳しい話はしていません。撮影が全部終わったらゆっくり話してみたいなと。
—まさにあの現場でもその大介と鉄平みたいな感じでっていう感じですかね?
中井:そうあり続けたいなというふうには思っていましたし、鉄平というのは、ある意味で悲劇のヒーローで美しい最期を遂げていくように見えます。男の子の甘さというのかな、(一族が)どんどん代を重ねていくことに、子供たちに甘えがでてくる。それを(原作者の)山崎さんがうまく描いていて、人間の良さみたいなものは甘さに繋がっていくっていう。でも、大介はその甘さが必要ないと思っている。その甘さとうれいを一生懸命出そうとしてる向井くんにはとっても好感が持てましたし、見て頂くとわかると思いますけど、すごくぴったりな役だと思います。
—内田さんいかがでしょうか?
内田:向井さんとは何回か共演させてもらっていますが、鉄平からすれば、相子は自分の母親をつらい目に遭わせてるとにかく嫌な存在。リビングで鉄平が大介に怒鳴る場面があるのですが、そのときに向井くんが今まで見たことのない顔してて、ちょっと近寄りがたいというか、こんな向井くんは見たことないないくらい。向井くんも、大介に対して向き合って、甘さや哀愁、爆発させるものまでつくってきていたので、私も負けられないとライバル関係のような相乗効果を持って現場にいられました。
—鉄平という30代の人間が大きな壁にぶつかる様は、私も共感できるものがありました。30代というのは自分のスタンスや価値観を見直す時期になることが多いと思っているのですが、いま振り返るとお二人にとって30代の自分はどう映っていますか?
中井:19歳でデビュー、当時大学生だったんです。絶対に大学は卒業してやると思って、学業と仕事を両立しながら大学を出ました。自分が本当に俳優っていう商売をやっていくのか、在学中に迷って就職活動をしようかと思った時期もあるんですが、テレビドラマが大ヒットして戻れなくなって、それでそのまま役者を続けることにしたんですね。やる以上は絶対負けたくないと、勝ち負けってのは自分にですけど、そこから10年はなにがあっても修行だと。この10年の間は結婚もしなければ、ということを決めて、30歳くらいまでそういうふうに過ごしました。役者として5、60歳で飯を食っていけてないと意味がないと思ってたので、自分の人生を振り返るより、先しか見てなくて。39歳になったとき、突如として、役者って何なんだ、俺なんでこんなことやってんだろうって思い始める時期があって、文楽から歌舞伎から日本の古典芸能と言われるものを全部見て、それから大衆演劇場も見に行って、最終的に答えを出すために、中国映画を引き受け、しかも自分1人で行こうということを決めるんです。みんなに止められるんですけど、辺鄙なところに日本人1人で行って、自分のわからない言語の中に存在したときに、何か見えてくるんじゃないかと。で、何がわかったかって言ったらわからなかったんだけど、やっぱり俳優っていう仕事をやり続けていくのは生きていくためなんだと。やっぱり俳優って商売は[生業]だと。それから、生業というのを明確に自分で認識するようになって、生業に立ち向かう自分の気持ちが変化して。それがちょうど僕は30代の終わりぐらい。30代といったら、一度自分を振り返るというか、周りからは若くもない的なことを言われるし、先輩はまだいるし、後輩は突き上げてくるし、だからそこで何か自分個人を追い込んでいく。僕にはたまたまそういう機会を得ることができたので良かったですけど、30代って大事なような気がします。
—内田さんにとって自身の30代はどう映りますか?
内田:私の場合は(芸能界に)戻ってきたのが30歳のころでした。そこから女優をしっかりやっていくと、覚悟して戻ってきたものの、ブランクもあり、世間の見え方とのギャップに悩んだりもしました。私は10代のときも貴一さんとお仕事させてもらっていて、復帰してからも兄弟役でお仕事をする機会があったんですが、そのときにあまりにも皆さんと足並みが揃わない自分の芝居に不甲斐がなくて、このままでは女優としてやっていけないと思い、演技というものに真剣に向き合いました。そこから芝居や頂いた役へのアプローチ、全部の意識が変わっていき、芝居をすることが苦しんですけど楽しいんです。デビュー以来そういう気持ちはなかったので。つくづく、今回もそうですが、私のターニングポイントにはいつも貴一さんがいらっしゃるんです(笑)。
(インタビュー・文/オガサワラ ユウスケ )
【放送日】4 月 18 日(日)スタート(全 12 話)
毎週日曜 夜 10 時 放送・配信[第 1 話無料放送][WOWOWプライム][WOWOW4K][WOWOWオンデマンド]
原作:山崎豊子『華麗なる一族』(新潮文庫刊)
キャスト:中井貴一 向井理 藤ヶ谷太輔 吉岡里帆 松本穂香 要潤 工藤阿須加 美村里江 笹本玲奈 福本莉子 / 麻生祐未 高嶋政伸 / 萬田久子 田中麗奈 加藤雅也 石黒賢 石坂浩二(特別出演) 内田有紀