男女間のモラルは考えたことがない
――いとことの結婚は日本でも法的に認められていますが、一部では血の濃さを気にする人もいる。『僕のなかの~』の主人公は複数の女性と関係を持ち、直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』に収録されている『かけがえのない人へ』の主人公は婚約者がいながら会社の元上司と付き合い続ける。白石作品で描かれる恋愛は、世間的なモラルから逸脱した男女が多い。
そうですね。僕の中には、その種のモラルはありませんね。基本、男女の関係におけるモラルって考えたことがないんです。あの傑作の『ひざまずいて足をお舐め』か何かでは山田詠美さんが書いていたと思うんですが、「人殺し以外は、男女関係において何をやってもいい」と。僕はこれに深く同意します。もちろん暴力はダメだけど、それ以外なら男女間は何でもありだと思っているんです。なので映画『火口のふたり』は原作よりも主人公たちが若くなっていることもあって、「あぁ、いいなぁ。若い男女がしがらみを忘れて、とことん肉体を求め合うのっていいなぁ」と思いました。いとこ同士もそうだし、同じ時代を一緒に過ごし、同じ空気を共有した学生時代の同級生も血縁関係に近いものがあるように感じます。同窓会で久しぶりに再会し、大人の関係になるのも楽しいんじゃないですか。
――『ほかならぬ人へ』や2011年の文庫化以降ロングセラーを続けている『翼』など、運命の恋人、魂の片割れとの出逢いが描かれるのも白石作品の大きな特徴ですね。
たしかに、以前の僕は“運命の出逢い”を信じていました。でも、最近はそうでもないかなぁと。心境の変化ですかね。
――えっ、『ほかならぬ人へ』や『翼』を繰り返し読む熱心な読者には、驚きの発言です。
もちろん、『ほからならぬ人へ』などを書いていたころは、運命の相手は必ずどこかにいて、真剣に探せば必ず出逢えると本気で信じていたんです。ところが、いまの妻と暮らし始めて20年ほどになりますが、その間、僕は一度も浮気をしたことがないんです。僕は妻に精神的に依存しているので、妻に捨てられたら生きていけない。なので、若い女性がいるような場所には、そもそも行かないようにしていますね。自分自身がまるきり信用できないので(苦笑)。釈迦の十大弟子の一人・阿難陀(アーナンダ)が「性欲を抑えるにはどうすれば?」と釈迦に訊ねたところ、「女性に逢うような場所に行かないようにしなさい」と教えられたという逸話がある。それを実践しているわけです。出逢いの場に行くことを自分が禁じているんだから、運命の出逢いも何もあったもんじゃないですよ(笑)。
――奥さまのことを愛されているんですね。
妻のことは愛していますね。でも、浮気できないのはそれだけじゃない。彼女に言われた一言がキツく胸に突き刺さっているんですよ。「私は世界で一番嫉妬深い女よ」と。この一言は男には効果てき面です(笑)。友人で、すごくモテそうな男がいるんですが、彼の場合は「ワンアウト・ゲームセット」と奥さんに常々言われていて、「恐ろしくてとても他の女性に手を出せない」といつもぼやいています(笑)。