5人の個性が紡ぎ出すリアルで優しい空間
池ノ辺 主要な5人のキャラクターを演じた役者さんたちについて教えてください。大塚京役の奥平大兼くんはどうでしたか。
中川 奥平くんは、どちらかというと、しっかり理屈として理解して自分の中に落とし込むタイプだったので、奥平くんと彼が演じる京くんは、人間性がまるで逆なんです。そのため奥平くんとしては理解し難い部分ももちろんあったとは思いますが、一生懸命理解しようとしていて、さらにわからないところはわからないときちんと聞いてくれるんです。わからない上で、じゃあどういう形なら奥平くんが演じる上で納得できるのか、そういうところをコミュニケーションしながら作っていけたので、僕としてはパートナーとしてすごく信頼が置けてありがたかったと思います。


池ノ辺 10代の男の子が、自分の気持ちをどうしていいかわからないと持て余しているところ、上手でしたね。
中川 セリフとか動きとか、脚本に書かれている動きをきっちりと演じるのはもちろんですが、彼の場合は、書かれていないオフのところもその役そのものになっている。そこが彼の役者としてのポテンシャルの高さというか表現力の豊かさだと思います。
池ノ辺 今後も楽しみな役者さんですよね。ミッキー役の出口夏希さんはどうでしたか。
中川 出口さんは、普段は飄々と元気で天真爛漫でいるんですけど、カメラが回って「用意、スタート!」となると、スイッチがパチッと切り替わって、毎回毎回狙った演技を一発で決めてくるんです。そのプロ意識はすごいですね。どんな環境であれ狙った芝居が一発でできるというのは、一流になるためには本当に必要な資質だと思うので、それをあの若さですでにできていることにはびっくりしました。僕も撮影中なのについ、褒めに行っちゃったくらい(笑)。


池ノ辺 今は可愛らしい雰囲気だけれど、どんどんすごい女優さんになっていくんでしょうね。ヅカ役の佐野晶哉くんはどうでしょう。
中川 佐野くんは、元気で明るくて、すごく気配りができて優しい子なんです。それはスタッフでもキャストでも誰に対しても分け隔てなく接して現場を明るくしてくれました。役に対しても本当に真摯に向き合って話し合いながら一緒に役作りをしていきました。とにかくめちゃくちゃいい子で、僕も人の子の親として感心しちゃって、どうやって育てられたんですかと親御さんに話を聞いてみたいと思ったくらいです (笑) 。
池ノ辺 役もそういう感じでしたよね。
中川 そうなんです。人への気配り、配慮、優しさ、そんなところはもうヅカそのものでした。芝居も素晴らしかったですし、オフの時の彼自身の人間性も素晴らしかったですね。


池ノ辺 パラ役の菊池日菜子さんはどうでしたか。
中川 これは僕の印象ですけど、菊池さんは、理屈で考えてというよりは、役を自分に憑依させるというか、理屈というより感情で芝居をするタイプだと思いました。ですから「用意、スタート!」でスイッチが入るというよりは、今日はこのシーンを撮るとなると、朝、「おはようございます」と来る時からすでに、その役のそのシーンのテンションになっているんです。スイッチの重さというか、そこに入るまでの力が必要なのかもしれませんが、だからこそ熱量の高い突き抜けた芝居、100%、120%の芝居を毎回見せてくれるんです。その芝居へのアプローチの仕方はとても面白かったですし、頼もしいと思いました。


池ノ辺 もともとの性格が役柄と一緒なのかと思ったくらいです。エル役の早瀬憩さんはどうでしょう。
中川 早瀬さんはこの中では一番若いんですけど、一番しっかりしていました。もともと住野先生の作品のファンで、『か「」く「」し「」ご「」と「』の原作もすでに読んでいました。だからなのか役に対しての解像度が非常に高かったので、僕が細かいオーダーをしてこう演じてくれというよりは、早瀬さんの思うエルが出しやすい環境をどうつくるかという方向にシフトしていきました。だから僕が想像もしていなかったところまで彼女が連れて行ってくれたようなところはあります。そこは本当に頼もしかったです。


池ノ辺 最初は変わったキャラクターだなぁくらいにしか思っていなかったのですが、5人の中で彼女のキャラクターがなかったらこの5人の話は成立しないと思うくらい、存在感がありましたよね。
中川 そうなんです。
池ノ辺 それも監督の演出の力ですね。
中川 いやいや、彼ら彼女らの力です。
池ノ辺 それぞれ、本当に将来が楽しみな役者さんだと思いました。