繊細な心情を、映像としてどうリアルに描くのか
池ノ辺 先ほど、繊細な心理描写の部分は難しいという話がありましたが、そこを表現するにあたって監督が何か意識していることはありますか。何か他の方法に頼るのではなく役者の演技によって表現されていると感じたんですが。
中川 僕の作品の傾向として、目線の芝居、つまりこの人物がこの時に何を見ているか、何に意識を向けているか、そういう描写を多く取り入れています。それと、映画を観るお客さんが、「このキャラクターは何を考えているんだろう?」と想像する時間を作ることも大事だと考えています。ですから、ちょっと必要以上に間(ま)が長かったりするところがあります。その間で、繊細さやキャラクターのディテールについても観る人の想像を掻き立てる、それができていたのかなと思います。

池ノ辺 ということは、ある人はこう感じていたけれど別の人はまた違う角度で感じていたかもしれないということですね。
中川 そうです、そこは観ている側に委ねたい。
池ノ辺 今どきの高校生像や、学校も、修学旅行も、本当にリアルだと思いました。
中川 それに関していえば、今回は、学校も、修学旅行先も全部生きている環境で撮影ができたんです。学校は、新潟にある県立高校の校舎で主に撮影しました。夏休みの空いている時間を使わせてもらったんです。
池ノ辺 つまり廃校じゃないということですね。
中川 そうです。修学旅行先も、チームラボの東京のミュージアムや上野の国立科学博物館の開館時間外を使わせてもらうなど、全部生きている環境で撮影ができた。リアリティという面では、実際にそういうところで撮影できたということがうまく機能したのかなと思います。

池ノ辺 確かに廃校だったり、今営業していないところでは、あの空気感は出せないでしょうね。ドキュメンタリー風のカメラワークも、よりリアリティがあってよかったです。
中川 僕は、作った構図でバチっと撮影するのはあまり好みじゃないんです。だから、この作品も、ほとんどをハンディカメラで撮っています。あたかもその空間にいて横で話を聞いているかのような感じを出したくて、ちょっと揺れているのもそのまま使っています。
池ノ辺 iPhoneで撮ったわけではないんですね (笑) 。
中川 iPhoneではないです (笑) 。しっかりしたシネマカメラをあえて揺らした感じで撮っています。
池ノ辺 記号をどう表現するのかも難しいところでしたよね。
中川 リアルな現実と地続きであるというのは、きちんと表現として示したかったところです。ですからあの記号がファンタジー的になってしまわないように、そこは気を遣いました。まずデザイン面では、非現実的なルックではなく、現実に存在するような何かしらの質感を帯びたものにしています。例えば子どものおもちゃなどでよくあるスクイーズ素材のぷにぷにした感じのものにしたり、公園のベンチのような木の質感のあるバーだったり、とにかく質感のリアリティにはこだわりました。さらにいえば、この物語は、能力者のお話というよりは、あくまでも10代の子どもたちのリアルな心情を描いた作品だと思っていますから、本当に最低限、物語の進行上どうしても必要だというところでしか記号などは出さないというこだわりで作りました。
池ノ辺 あの記号は、最初は面白いと思って意識していたんですが、話が進んでいくと、その表現の仕方にすごく納得がいって、逆に自然に感じていきました。