Mar 14, 2024 interview

ユーロスペース代表堀越謙三が語る 映画人生と"新潟国際アニメーション映画祭"

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なぜ、新潟でアニメの国際映画祭か

池ノ辺 昨年の第1回目の映画祭はどうだったんですか。

堀越 まあ、客が来ないのはどうでもいい(笑)、なんて言うとまた関係者に怒られるんですが、今の時点で新潟でたくさんの客が入るような映画祭は想定していないんです。そこを気にしてしまうと映画祭としてはレベルが落ちてしまいますから。そうではなくて、世界で高い評価を得られるような映画祭にすることが、最終的には新潟にとっても一番いいと思います。例えばフランスのアヌシーも、決して大きくはない地方都市でしたが、映画祭(アヌシー国際アニメーション映画祭)でいまや世界に知られた都市になりました。

池ノ辺 そもそも新潟市は「マンガ・アニメのまち」として宣伝しているんですね。

堀越 そうなんです。でもその多くは、高橋留美子、赤塚不二夫といったそうそうたるクリエイターたちの出身地であるということが一番の自慢になってしまっている。そうした才能を生み出すことのできた新潟という土地の価値を、まだ、うまく説明できていません。新潟で本当にすごいのは実は育成の力なんです。

日本アニメ・マンガ専門学校などの実務を学べる学校ではアニメ制作を支える人材を20年以上にわたり育てているし、僕が教えている開志専門職大学にはマンガ・アニメ学部がある。さらに国立大学である新潟大学にもアニメの研究者、教授がいるんです。アカデミズムまでついたマンガ・アニメのまちなんてそうないですよ。それこそ自慢すべきだと思います。

池ノ辺 校舎を見ましたが、きれいな建物でした。

堀越 まあ、僕から見ると芸術はもっと汚いところじゃないと生まれないと思いますけど(笑)。

池ノ辺 この映画祭で堀越さんは第1回から実行委員会委員長を務めておられますが、この映画祭をやろうと思ったきっかけは何だったんですか。

堀越 そもそもは、僕が頼まれて2021年に開志専門職大学のアニメ・マンガ学部の教授になったことです。彼らは卒業して多くはアニメの制作会社に入りますが、そうなれば月200時間残業して手取り18万の生活が目に見えています。アニメは当たっていると言われても、それを支える人たちがそういう生活しかできないなんて、変な業界ですよね。それに対して何かできないだろうかと思ったのが一つ。それに加えて、人材育成という言葉は好きじゃないですが、才能が育つのを間近にするのはすごく楽しいことです。何かを教えて上手くなるということではなくて、人が育つような環境をどうやって整備してあげるかと考えた時に、同級生や外国の人と触れ合って自分で学んで成長していくのが一番早いと思ったんです。

池ノ辺 確かに実践してみて初めてわかることは多いです。

堀越 そこから、そういう環境を作るきっかけとして映画祭はどうだろうかと。国際映画祭にして花火を打ち上げれば、新潟が世界に知られる。それを足がかりに次の戦略を考えればいいかと思いました。

池ノ辺 ゼネラルプロデューサーの真木太郎さんから堀越さんが誘われたのかと思ってました。以前に「頼まれることが自分の人生だ」とおっしゃっていたのを耳にしたので(笑)。

堀越 今回は彼の方が、面白そうだと乗ってくれたんです。僕自身、映画祭は40年ほどずっと見てきたので、この映画祭の設計も僕がやりました。アニメの専門家ではないので、作品の選択は数土(直志)さんがやっています。まあ基本的な映画祭の設計としては合格点かなと。

池ノ辺 2回目の今年の手ごたえはどうですか。

堀越 昨年は来客数はともかく、一定の評価はいただけたのでそれは良かったと思っています。今回一番嬉しかったのは、2年目にして約30カ国から50本もの応募があったことです。しかもクオリティが高いものです。これには正直驚きました。実はアニメというのは、特に長編アニメの制作にはとてもお金がかかるんです。ですから貧乏な国では作れない。たぶん10年前だったら10数カ国で作られているくらいだったと思います。それが応募で29カ国から来たということは、40カ国くらいで作られているんじゃないかと思います。あとは配信で、前金をドンと出して長編アニメを作らせるところもあるんじゃないかな。

池ノ辺 レベルの高い映画祭として世界で認められたということですね。素晴らしいです。

堀越 一つには長編アニメに特化したというアイデアが当たったんだと思います。日本のアニメはすごいと言われていますが、残念ながら、すごいのはアニメそのものの技術というより、それをいかに安く作るかという技術なんです。だから儲けは出ている。物語がすごいのはアニメというより原作のマンガが素晴らしいと。つまり総合力ですねそして、おそらくこの業界でも多くの人は、このまま先に行けるとは思っていない。なんとかしなければという思いがある。

池ノ辺 映画祭が、これを打開するきっかけになればという思いもあるんですね。

堀越 キーワードとしては「長編アニメ」と「批評性の復活」です。これまでの映画祭のアニメはアート志向の短編がほとんどでした。長編アニメのこうした映画祭は、アニメ業界の人たちにとっても夢だったと思うんです。