2023年、一つの映画祭が新潟市で立ち上がった。その名も「新潟国際アニメーション映画祭」。長編商業アニメーションに特化した世界でも珍しい映画祭である。2回目の今年は、なんと世界29カ国から約50本の応募があり、同映画祭の注目度の高さを窺わせた。
一方、開催地である新潟市は2010年代より「マンガ・アニメのまち」を標榜し、国内外からの観光客にアピールしてきた。この映画祭が、アニメ業界、日本の地方都市を活性化する有効な起爆剤となるか、期待したい。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、ユーロスペース代表であり新潟国際アニメーション映画祭実行委員長を務める映画プロデューサーの堀越謙三氏に本映画祭への思いなどを伺いました。
作家で売ってしまえば、何もしなくてもお客は来る
池ノ辺 堀越さんは、1982年にユーロスペースを創設されて以来、映画プロデューサーとして長く活躍してこられました。こうやってお話しするのは初めてですよね。
堀越 そうですね、初めてですね。
池ノ辺 私は、当時もう予告編の仕事をしていたんですけど、ユーロスペースとかシネマライズといった渋谷のミニシアターに通って、ますます映画の面白さを知りました。
堀越 ライズがなくなったというのは寂しいですよね。渋谷の象徴みたいなものでしたから。ライズをやっていたご夫婦とはけっこう親しくしていただきました。でも、うちと付き合っているのがバレると大手の配給会社ににらまれるからと、こっそり付き合っていました(笑)。当時は、客が入るものはライズ、入らないものはユーロというのが原則でした。ユーロでやってしまうと色がついちゃうから。マニアックというか作家性の強いものというイメージになって、一般性がなくなる。
ライズがクローズしたとき、まあ、採算などからいえば、やっていけないわけではなかったと思うんですが、結局、彼らのかけたい映画がもうなくなったというのが一番大きかったと思うんです。そしてそのころ、予告編制作会社のバカ・ザ・バッカという社名を耳にしました。その人を食ったような社名に僕は思想性を感じて、そこが作った予告編を見て、これからはこういう予告になっていくんだと思ったんです。
池ノ辺 確かに、予告編はそれまでとは違った、カット数が多い広告としての予告編が好まれる様になっていきました。堀越さんはどういう予告編がお好きだったんですか?
堀越 今までは、ユーロはもちろん、ライズでかけていた作品は、僕が予告編を作ることが多かったんですよ。
池ノ辺 えっ、堀越さんご自身が予告編も作られてたんですか?
堀越 予告も宣伝も全部僕と社員1人とでやっていました。
基本的にはオリジナルの予告編をタイトルを変えて使う。それが使えないものは僕が作ったんです。僕は、映画は物語ではないと思っているので、ストーリーを紹介するというよりは「これは今まで観たことのない映画だ。新しい映像のスタイルだ」ということがわかるようなものを一番に意識していました。そもそも客を増やすとか興行成績に興味がなかったですからね。客を選んでいましたし(笑)。
池ノ辺 作品も選びたいけど客も選びたいと(笑)。
堀越 でも実際のところ、カウリスマキ、カラックス、シュミット、キアロスタミ‥‥これらの監督の作品で損をしたものは1本もないです。
池ノ辺 商才ってそういうものなんでしょうね。
堀越 つまり、作家で売ってしまえば、何もしなくてもお客は来るんです。