「目の前のモヤモヤをどうにかしたい」。その結果としての映画作り
池ノ辺 監督はどうして映画監督になろうと思ったんですか。小さい頃から映画はよく観てたんですか。
石井 もちろん観てましたけど、小さい頃は「映画監督」なんていう仕事もわからないですよ。わからないけど、とにかく自分で映画を作るということをやりたかった、というところだと思います。
池ノ辺 何かきっかけがあったんでしょうか。
石井 映画監督に命を助けられたとか、そんな劇的なものはないですよ(笑)。結局、目の前のモヤモヤをどうにかしたい、どうにかしようと思った時、目を瞑ってモヤが晴れるのを待つ人もいれば、自分で何とかしようとする人もいる。それが僕の場合はたまたま映画というものづくりだったということです。ですから、そんな劇的なものはないです。
池ノ辺 では、監督にとって、映画って何ですか。
石井 僕の中では、ふたつに分裂しているんです。一つは映画作り、一つは観る映画。僕にとって今、重要なのはやはり前者なんですね。映画を撮ること、そこに自分の人生の意味を完全に託してしまっていますから。ところが観る方の映画というのは、作る方が強い意味を持ち始めると、どうしても影が薄くなってしまう。何でかわからないけれど観なくなっちゃうんですよ。
池ノ辺 他の人が作った映画は面白くないですか(笑)。
石井 面白いとか面白くないとかじゃなくて、そもそも映画館に行かなくなっちゃったんです。
池ノ辺 それはコロナ禍の影響で?
石井 それもあるとは思います。だから今、意識的に自分に「映画館に行こう」というキャンペーンを課しているんです。
池ノ辺 それはわかります。私も劇場で見る機会が減って配信で見ることが増えていたんですが、ある時劇場の字幕についていけてない自分に気がついてショックを受けました。これは劇場で映画をみてリハビリをしなければダメだと思って(笑)。コロナ禍を経験して、劇場に行けないとか映画が作れないとか、そういう中で逆に映画の奥行き、奥深さが見えた気がしました。
石井 それは大切な視点ですね。
池ノ辺 次にお会いするときは観た映画の感想もお話しできるといいですね。もちろん監督の次回作も楽しみにしています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1983年生まれ。埼玉県出身。大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。商業映画デビューとなった『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞。2013年の『舟を編む』では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。2017年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』では、第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品され、その後、第9回TAMA映画賞にて最優秀作品賞の受賞を皮切りに、第39回ヨコハマ映画祭、第32回高崎映画祭、第30回日刊スポーツ映画大賞など多くの映画賞で作品賞や監督賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベストテンでは、日本映画ベスト・テン第1位を獲得するなど国内の映画賞を席捲した。その他の主な監督作品に『ぼくたちの家族』(14)、『バンクーバーの朝日』(14)、『乱反射』(18)、『生きちゃった』(20)、『茜色に焼かれる』(21)、『アジアの天使』(21)。
長年の夢だった映画監督デビュー目前で、すべてを奪われた花子。イナズマが轟く中、反撃を誓った花子は、運命的に出会った恋人の正夫とともに、10年以上音信不通だった家族のもとを訪ねる。妻に愛想を尽かされた父・治、口だけがうまい長男・誠一、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、花子の反撃の物語は思いもよらない方向に進んでいく‥‥。
監督・脚本:石井裕也
出演:松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、仲野太賀、趣里、高良健吾、MEGUMI、三浦貴大、芹澤興人、笠原秀幸、鶴見辰吾、北村有起哉、中野英雄、益岡徹、佐藤浩市
配給:東京テアトル
©2023「愛にイナズマ」製作委員会
公開中
公式サイト ainiinazuma.jp