世界に見せびらかしたい俳優陣・スタッフ陣
池ノ辺 役者の皆さん、本当に上手かったです。
齊藤 底知れない力があるなという方たち、それはもう子役の磯村アメリさんも含めてですが、そういうみなさんに集まっていただけました。普段は僕と同業者なわけですが、俳優目線で見てしまうと敵わないというか、自分が落ち込んでしまいそうなくらい、深いところで表現してくれて、あっぱれでしたね。
この作品で、海外の映画祭も何箇所か行かせてもらいましたけど、自分としては、この俳優陣を世界に見せびらかしたいという想いです。日本だと俳優が監督した映画とか、ホラー映画だとか、僕としてはホラーではないと思っているんですが、そういうどこかフィルターがかかったところで捉えられてしまいがちです。でも、僕としてはもう少しニュートラルなところでこの映画に出会って欲しいという思いもあるし、スタッフやキャストの方たちの才能が炸裂している作品であり、これを世界に知らしめたいというスケールの大きい夢を持って僕は作りましたから、これからも引き続き海外にも展開して、見せびらかしていきたいと思っています。
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池ノ辺 もう、ぜひ見せびらかしてください(笑)。現場ではどういった形で演出されたんですか。
齊藤 振り返って考えてみると、衣装合わせの時にかなり話をした方が多いかもしれません。
これは自分が俳優の時もそうなんですが、衣装合わせというのは、まずビジュアルを作ることでその役の質感みたいなものを確かめるということもありますが、例えば監督、スタッフ、そして被写体となる役者が、目的地を一つに定めるというようなイベントでもあるんです。
池ノ辺 窪塚洋介さんなんて、最初見た時誰だかわかりませんでした。
齊藤 今回の作品で、一番原作から役が展開したというか味付けがあったのが窪塚さん演じる主人公の兄 聡です。ああした表現で、これまで見たことのない窪塚洋介を見せてくださった。その匙加減については、やり過ぎだったら言って欲しいと言われていたんですが、結局、抑えてとかもっと出してとかは一切言う必要がありませんでした。現場でも素晴らしかったですし、さらにそれをつなげてみた時に、本当に絶妙な匙加減でした。
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池ノ辺 窪塚さんだけでなく本当に皆さん素晴らしかったですよね。
齊藤 皆さんが、自分の役だけじゃなくて全体の周波数みたいなものにしっかりとアジャストしてくれた、そんな感じです。それは俳優だけでなくスタッフもそう。作品の向かっている方向、言葉にはできない何か、そこを皆さんがそれぞれビビットに感じてくださっていました。その感覚、嗅覚は素晴らしかったです。
池ノ辺 その根本には、監督の、この作品を作るにあたっての想いがあって、それが皆さんにしっかり伝わっていたんでしょうし、みんなが監督のことが大好きで、なんとか力になりたいというのはあったと思いますよ。
齊藤 唯一、僕がしたことは、背伸びをしなかったことですかね。監督たるもの、決定者であるわけだから、いろんなことを熟知していなければいけないという考えもあるとは思いますが、それぞれの部署では、それぞれのスペシャリストが集まっています。じゃあ僕にできることは何かといえば、はなから白旗をあげて、そのスペシャリストたちに、「この作品でやりたいと思う表現をしてください」と、そういうスタンス、“小粒の監督” でいることだと思ったんです。今、振り返ると、それはとても大事なことだったと思います。
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池ノ辺 撮影も素晴らしかったです。
齊藤 それは、芦澤明子さんのお力ですね。芦澤さんの一ファンとして、彼女の少し観念的なショットがこの作品には絶対必要だと思っていました。そして撮影が始まると僕以上にディレクターの役割を各所で果たしてくれました。
もちろん事前に絵コンテなどで決めていたカットもありますが、それ以外は、芦澤さんの感覚で役者の芝居に惹きつけられるようにグッと寄っていったりという感じでした。芦澤さんの感性と、演者さんの感性、さらには美術、照明、録音、ヘアメイク、衣装、全ての人たちの化学反応が起きている只中で、芦澤さんがコレと思う瞬間、その最大の旨みが引き出されたところを、まさにライブで迫ってくれた。監督の演出でというよりは、本当に才能のある方達が集まり、ある種の自由度を持ってロジカルに進行していく、僕は一番いい席で、その化学反応が起こる瞬間を見ていた。そんな撮影期間でした。