長野県に住むスポーツインストラクターの清沢賢二は、愛する妻と幼い娘たちのために念願の一軒家を購入する。“まほうの家”と謳われたその住宅の地下には、巨大な暖房設備があり、家全体を温めてくれるという。理想のマイホームを手に入れ、充実を噛みしめながら新居生活をスタートさせた清沢一家。だが、その幸せは、ある不可解な出来事をきっかけに恐怖へと転じていく。
選考委員の満場一致で小説現代長編新人賞を受賞し、話題となった神津凛子による禁断のベストセラー小説が遂に映画化。監督を務めるのは、俳優であり初長編映画監督作『blank13』(2018)が国内外の映画祭で8冠を獲得した齊藤工。主演に窪田正孝を迎え、蓮佛美沙子・奈緒・窪塚洋介ら実力派俳優陣によって 「家」 を中心に様々な思惑と怪異が スリリングに折り重なる、これまでの常識を覆すホラー・ミステリー作品が誕生した。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『スイート・マイホーム』の齊藤工監督に、本作の見どころ、映画への想いなどを伺いました。
“ステイホーム” を経たからこその「スイート・マイホーム」
池ノ辺 『スイート・マイホーム』、拝見しました。面白かったです。すごいエンターテインメント作品でした。
齊藤 ありがとうございます。
池ノ辺 まず、映画化することになった経緯を伺えますか。
齊藤 中村プロデューサー(日活)と赤城プロデューサー(フラミンゴ)からオファーをいただいたのが最初です。かれこれ4年近く前になります。そこからコロナ禍を挟んだり、さまざまな紆余曲折があって、映画化に至ったというプロセスです。
実際、コロナ禍での “ステイホーム” という期間は、この作品には必要な時間、必要な要素だったと思います。その中で、まさに時代と接続するような原作だということがだんだんにわかってきて、偶然が必然になってという流れがグラデーションのようにじわじわと染み渡っていった感じですね。
池ノ辺 オファーがあって最初に原作を読んだ時には、どんな感想を持たれましたか?
齊藤 もちろん面白いとは思ったんですが、同時に非現実的な内容だとも思いました。神津凛子先生はスティーヴン・キングに影響を受けていると公言されてますが、特に、そうしたエグ味の部分は、小説だから描けるんだろうと。
池ノ辺 原作者の神津先生にはお会いになったんですか。
齊藤 ええ、先生にお話を伺う機会もいただいたんですが、その時にも、この作品は、映画になるという未来を見据えて書いたわけではなくて、生まれてきたキャラクターたちが勝手にいろんなことをしでかしていった、それを自分は記したんだとおっしゃっていて、それって映画になりそうで実は映画化が一番難しいんじゃないかと思ったんです。小説自体は映像的ではあるんですが、今のご時世、とても映像化はできないなという部分も何箇所かあって、「これを映画にするというのは果たして現実的なのだろうか」という思いは、クランクインしてからも抱えていました。