しんちゃんと大根監督との出会いで生まれたもの
池ノ辺 監督は大根仁さんですね。
吉田 大根さんがしんちゃんを撮ると聞いてどう思いました?
池ノ辺 びっくりしました。大根監督は実写の監督さんですよね。アニメとは演出の仕方なども違うでしょうし、実写の監督にできるのかなと、正直思いました。大根監督は、依頼された時にどんな感じだったんでしょうか?
吉田 大根さんは「僕でよければ」と。まず、しんちゃんに興味を持っていただけるのか、ということがありましたし、今、おっしゃったように実写畑の監督がアニメーションをやるということに抵抗はないだろうか、「アニメはやりません」と言われてもおかしくないですから、そこで引き受けていただけたのは嬉しかったですね。
池ノ辺 監督に決まった経緯はどういう流れだったんですか?
吉田 2015年に公開された『バクマン。』を観たんです。最初にキャスティングが発表された時に、神木隆之介さんと佐藤健さんのW主演だったんですけど、逆じゃないのかとか随分叩かれていたんですけど、私はなるほどと思いましたし、ものすごく長い原作なんですが、実際に映画を観たら、その芯をちゃんと捉えていると思ったんです。
池ノ辺 よくできた面白い映画でしたよね。
吉田 原作は全然裏切っていなくて、でも映画としての新しい2時間になっているというのが、鮮やかな手腕だと感心して、大根さんだったら原作の良さというか、その核心をきちんと撮ってくれるだろうと思いました。
池ノ辺 監督によっては、核心から外れてどこかに行っちゃう時がありますからね。
吉田 そうなんです。元々の作品よりも自分が前に出て、自分が表現したいことを前面に出してしまうという場合もあると思うんですけど、大根さんに関してはそれは全然感じなかった。それからテレビ東京のオムニバスドラマ「週刊真木よう子」も見てたんですけど、あれ、面白いですよね。笑いが上手だなと感じて、大根さんだったら、しんちゃんの遊び心みたいなものもうまく表現してくださるだろうと思ったんです。
池ノ辺 確かに、笑いがあって泣きがあって、最後に感動して、がしんちゃんですもんね。
吉田 そこがウエットになりすぎないのもうまいな、上品だなと思うんです。大根さんは上品で、しんちゃんも上品だから合うんだ、と私はずっと周りに言ってたんですけど、それはなかなか伝わらなくて、「しんちゃん、上品ですか」と(笑)。
池ノ辺 実際に大根監督と組んでみていかがでしたか。
馬渕 監督は、しんちゃんをかなりリスペクトして、原作を崩さずにやってくれているなというのは感じました。
池ノ辺 全体的にメリハリもありましたよね。
吉田 その辺は編集のうまさが出ていると思います。テンポの感じも、編集が入る前と後では全く違っていましたから。
池ノ辺 アニメの場合は、基本的にはコンテ通りに編集していきますよね。
吉田 アニメは余分なシーンは描けないので、絵コンテで、ある程度の編集をしている形のものになっちゃうんです。もちろんその前後に余白は作っておいて、カットの切り替えの調整はやるんですけどね。
馬渕 実写みたいに、いっぱい撮って、そこから取捨選択して、ということはできないです。絵を描かなきゃならないとなればお金もかかりますから。最初からある程度の設計図はできていてオーバーしても10秒、20秒くらいです。
吉田 その点、今回の3DCGは、脚本も多め、設計図も多めからスタートしています。これはもうアニメの現場の人だけだったらできなかったと思います。こんなに頑張って描いたんだから切れないよねとなりますよ。
池ノ辺 徹夜して描いたのにとかね。
吉田 そこは大根さんだから、作品の一番いい仕上がりを目指してやっていただけました。編集の方も、大根さんといつも組んでる方が入ってくれました。
馬渕 編集の大関さん、アニメ作品は初めてだと言ってましたね。
吉田 大根さんの仕事を間近で見られたのはすごく面白かったです。でもその演出指示に応える白組は大変だったろうなと思いますけど(笑)。でも、結果的に白組も入ってもらって良かったと言ってますね。
馬渕 大根さんの直しのコメントとか指示とか、いちいちその理由が的確なので、そこは本当にすごいなと思いましたね。実際、直したものをつないでみると、全然違うんです。