Jun 10, 2023 interview

原作者・田島列島が語る マンガでは表現しきれない 映画的な映像が良かった『水は海に向かって流れる』

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通学のため、叔父・茂道の家に居候することになった高校生の直達。だが、どしゃぶりの雨の中、最寄り駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性、榊さんで、案内されたのはシェアハウスだった。そこには榊さん、漫画家の叔父など、いずれもクセ者揃いの男女5人が暮らす。想定外の共同生活が始まり、直達は榊さんに淡い想いを抱くが、ふたりの間には過去に思いもよらぬ因縁があった。

26歳のOL・榊さんと高校1年生の直達を中心にシェアハウスの賑やかな日常を描いた本作は、圧倒的支持と高い評価を集める田島列島の同名マンガの映画化。榊千紗役に広瀬すず直達役に若手期待の俳優・大西利空を迎え、さらに叔父茂道役の高良健吾をはじめとする個性派俳優が脇を固める。監督は『そして、バトンは渡された』『ロストケア』の前田哲。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『水は海に向かって流れる』の同名原作マンガの作者・田島列島先生に、本作の見どころ、漫画家としての歩みなどを伺いました。

映画はまるでお祭り

池ノ辺 田島先生の原作が映画化されました。今回の『水は海に向かって流れる』は、

『子供はわかってあげない』(2021)に続いて2作目ですか。本作をご覧になっていかがでしたか。

田島 すごくいい映画になってよかったです。

池ノ辺 ご自身の作品が映画化すると決まった時って、どんなふうに感じるんですか。嬉しいとか大変とか。

田島 嬉しかったですね。『子供はわかってあげない』の時は何かお祭りみたいな感じがあったので、またあのお祭りが始まるんだと思って。普段、マンガを描いている時には、ほとんど1人での作業ですから、人がたくさん動いて、みんなが一つのことに向かって動いていくとか、ちょうど文化祭前の準備をしている時みたいですよね。それで公開している時がお祭り本番みたいな。そういう感じがあって、忙しいは忙しいんですが、ワクワクする感じです。

池ノ辺 本作の予告編を弊社で作らせていただいたのですが、予告編を作る時は、完成前の映像などを何人かで観て担当者を決めるんです。本作では女性のディレクターがいいんじゃないかなと思っていたら、男性のディレクター陣からも「この表現はすごくわかる。自分が担当したい」という声が上がって、それで3人のディレクター候補に、「このセリフが素敵だからこれを中心にいきたい」とかそういう作品に対する想いを90秒ほどの映像にしてもらったんです。その中から、担当ディレクターを決めました。

田島 そうだったんですね。

池ノ辺 その時にも思ったんですが、田島先生のセリフはひとつひとつがすごくいいなと。先生ご自身はその辺を大切にしているとか、何かこだわるところはあるんですか。例えばこのタイトルは、どこからつけたんですか。

田島 このタイトルは、父が、左官業でまだ若かった弟子の頃に、親方から“水は上から下に落ちんだ”と叱られたときに、いや、“水は海に向かって流れるんだ”と思ったんだという話を聞いた事があって、私はそれを覚えていたんです。それで今回、これはタイトルとして見栄えがするかな、かっこいいかなということで使ってみました。

池ノ辺 素敵なタイトルですよね。