Nov 30, 2022 interview

寒竹ゆり監督が語る “あの時代”を描き、いろんな世代の記憶や感覚とリンクする『First Love 初恋』

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池ノ辺 撮影に入るまでに随分時間をかけたのではないですか。

寒竹 脚本は、2018年の年末に話をいただいて、そこから最終的には2年くらいかけて直していったような気がします。そこからほぼ4年経って、その間にコロナ禍もあって‥‥こういう不測の事態が起きると、人の価値観が揺れますよね。

この作品の20年でいえば、バブルが弾けた後の世の中で、東日本大震災があって、そういう困難を経た日本の、人々の判断軸の移り変わりというものを、この脚本を書く上では意識していたと思います。そこに対して、それぞれの個の意識はもちろん粒だっていて違うと思うんですけど、皆さんがそれぞれ当事者として感じてきた感覚があると思うんです。

池ノ辺 そうなんです。自分自身共感するところがあちこちに散りばめられていて、それがまた面白いと思ったんです。たぶん、主人公と同世代だけではなくて、いろんな世代の人がそれぞれの立場から共感できる部分があるんじゃないかと思いました。「First Love」のあの曲が大ヒットしていた時に、どうしてたとか、私も思い出すことがたくさんありました。

寒竹 観た方がそれぞれ「あの時はお腹大きかったな」とか、「失業してたな」とか、いい時も悪い時も、そこにリンクするものがあると思います。

池ノ辺 それから、家の中のインテリアとか食器とか料理とか、すごく可愛くてひとつひとつに愛情をもって作られているようで、気持ちがほっこりしました。あれは監督のこだわりですか?

寒竹 そうなんですが、現場ははた迷惑だったかもしれません(笑)。料理は、友人の料理家の方にお願いして作ってもらっているんですが、美味しすぎて俳優たちはカットをかけてもずっと食べ続けているほどでした(笑)。劇中の料理は、もちろん見栄えも大事ですが、食べた瞬間の感覚は芝居に滲むと思うんです。

今回は五感の話でもあるので、相手のことを思って料理を作って、その相手が喜んでくれるというシチュエーションで、美味しいに越したことはない。俳優の顔も自然とほころびますから、本当に大事だと思っています。それは時間の制約の中では疎かになりがちなんですが、今回は現場にキッチンを作って仕込むところからやらせて頂けました。

池ノ辺 監督はいつも撮影の中でいろいろこだわるほうなんですか。

寒竹 自分としては、こだわりというよりは割と普通のことを言っているつもりなんですけど、すごく細かくて面倒くさいと思われてるのは承知してます(笑)。