「ダイアナ元皇太子妃の半生には、愛、悲劇、裏切り、復讐─そのすべてが詰まっている。まさに、現代を象徴する物語だ」と、本作『プリンセス・ダイアナ』の監督エド・パーキンズは語る。ダイアナ没後25年を迎えた今年、彼女の死が私たちに突きつけた有名人と一般大衆の関係、そして両者をつなぐメディアの問題は、SNSの発展によって、ますます激しく複雑化している。
ダイアナの生きた軌跡を振り返ることが、まさに今の社会をよりよくするヒントになると考えたパーキンズ監督は、英国を拠点に活躍する気鋭のドキュメンタリー作家。本作は、ナレーションやテロップによる解説や分析を加えることなく、当時の膨大な資料から厳選した素材だけで作り上げた。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、エド・パーキンズ監督に、本作品が生まれるきっかけ、ダイアナ妃という存在への思いなどを伺いました。
観客が没入し体感できるようなドキュメンタリーに
池ノ辺 素晴らしい映画でした。観ているうちに、どんどん内容に引き込まれていって、ダイアナ妃の魅力が伝わってきたのですが、それだけに最後はやはり切なくなりました。
パーキンズ ありがとうございます。まさにそれは、僕がこの映画で意図したことです。
池ノ辺 普通にイメージするドキュメンタリーとは違うものでしたね。
パーキンズ そうですね。いわゆる伝統的なドキュメンタリーだと、インタビューする人とされている人が出てきて、過去のある出来事を、現在から振り返るかたちで分析をするという手法が多いと思います。その場合に観客は、その人物あるいは出来事から距離を置いて冷静に、そして客観的に捉えるようになるのではないかと思います。
でも僕は、観ている皆さんが映画に没入して、体感、体験できるような、そして感情が揺さぶられるような、そういう映画体験ができるようなものにしたかったんです。というのは、多くの人々にとって、ダイアナ妃と自分との関係性というのは、多分にエモーショナルなものだったと思うのです。ですからその関係性を通して、改めて観る人それぞれのダイアナ妃を見つけてほしいと思ったんです。
池ノ辺 まさしくそういう体験ができました。監督ご自身もこの映画を制作する中で、そういう再発見があったんですか?
パーキンズ 制作の過程で、彼女のさまざまな記録映像を見たのですが、改めて、彼女がいかにすごい存在であるか、同時に複雑で、そして誰もがそうであるように短所もある繊細な人間でもあった、ということが見えてきました。
ダイアナ妃については、これまで、どちらかといえば単純に、ある一つの視点から描かれてしまうことが多かったのではないかと思います。僕としては、彼女の持つニュアンス、あるいは複雑さを含め、できるだけ多くの視点から多重的に多面的に、立体的なキャラクターとして描くことで、観ている皆さんが改めてダイアナ妃と出会えるような、そういう映画にしようと考えました。