両親が離婚し、母の故郷である山口県の瀬戸内にある小さな島で暮らすことになった小学4年生の少女、原田凪(なぎ)。母・真央と、祖母・佳子と一緒に、佳子が医師をしている島唯一の診療所で暮らしている。普段は明るく振る舞う凪だが、母へ暴力を振るうアルコール依存症の父の姿が目に焼き付き、心に傷を負っている。そんな凪を、事情を知った上で何も言わず温かく受け入れてくれる島の住民たち。彼らもまたそれぞれ悩みを抱えながらも前向きに生きていた。その悩みを知った凪もまた、彼らを支えようと奔走し、一歩ずつ笑顔を取り戻していく。だが、島での平穏な日々は長くは続かなかった―。
自然豊かな島を舞台に子供たちの成長や家族の姿を描く『凪の島』。主人公・凪を演じるのは、子役として多方面で活躍する新津ちせ。その母に加藤ローサ、父に徳井義実、さらに木野花が、祖母役を務める。自らも山口県に住む長澤雅彦が監督及び脚本を担当する。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、長澤雅彦監督に、本作品の撮影時のエピソード、舞台となった山口県との縁、映画への思いを伺いました。
『凪の島』の舞台、山口との縁に導かれて
池ノ辺 『凪の島』拝見しました。暑い夏に、太陽の光が輝き、波の音や潮の香りのする風が吹いて、身体全体で感じる、そんな映画でした。
長澤 そう言っていただけるのは一番嬉しいですね。
池ノ辺 今回の作品は、瀬戸内海の島が舞台ということで、とてもきれいな島でしたけれど、監督は瀬戸内海とはご縁があるんですよね。
長澤 山口県に住んでもう12、13年くらいになります。今回の映画で主に舞台になった島で、何年か前に私的な小さな野外映画祭をやったんです。廃校になった学校のグランドを借りて、自分たちがかけたいものをかけて。それが僕の中ではとても良かったんです。スピリチュアルなものを感じたというか、とても不思議な感覚がありました。
池ノ辺 それは場所に対してということですか?
長澤 場所もそうですけど、そこで映画を観ていること自体が、ですね。だから、いつかここで映画を撮りたい、撮ることになるんだろうなという、そんな思いがあって、そこから4年後ぐらいに今回の映画を、その場所で本当に撮ることになったんです。
池ノ辺 もともとは東北のご出身ですよね。
長澤 そうです。高校まで秋田で、大学に入る時に東京に出てきて、それからずっと東京ですけれど、2010年にちょっと縁があって山口県の大学で教えるようになって、それで半分東京半分山口みたいな感じで住むようになったんです。
池ノ辺 基本は山口がメインですか?
長澤 今も行ったり来たりです。山口にどっぷり住んでしまうと、逆に何かを表現しようとか創ろうという気にならないかもしれないんですが、東京と行ったり来たりというのが割とちょうどいい距離感なんでしょうね。東京から行くとあまりに違って、ああ、いいところだなと思ったり、そういうことが積み重なっていって今回の映画も形になっていったのかなと思います。