かわいい弟がそこにいたから、ちゃんと姉になれた
池ノ辺 今回は、主人公の一人である神谷透くんのお姉さん役でした。撮影に入る時には、どんなふうにしようと思っていました?
松本 この早苗という役は、ただ単純に優しいというのとも違うんです。何かいろんなものを抱えている。それに小説家なので、言葉は慎重に大切に扱っている人だと思いました。否定もしない、肯定もしない、あるがままを受け入れてくれる、というような押し付けがましくない優しさ、それを持った人として存在できたらいいなと思っていました。
池ノ辺 まさにそんな風に見えました。最初から、ああ、透くんのお姉さんがいると思いましたもの。
松本 嬉しいです。
池ノ辺 透くんとの撮影は、どんな感じだったんですか。
松本 撮影の日数がそんなになかった中で、透を演じてる道枝駿佑さんのピュアなところにすごく助けられました。作ろうとしない、自分の今持っているもので、ただそこにいる、そういう意味でとても心強い方だったので、私も安心してそこに向き合えたという感じです。早苗を演じるにあたって、透の存在に役を作っていただいたというか、道枝さんが透として、とにかく真っ直ぐに伝えようとしてくれるんです。なので、ワンシーンが終わるごとに、本当に弟のようにかわいく思えてきました。
池ノ辺 確かに演技も存在感も素敵な役者さんでした。
松本 道枝さんは子どもの頃からこの世界にいたと思うのですが、技術とかに頼ろうとするような余計なものが染みついていない、そこが本当に素敵だなと思いました。そういう意味では、アイドルの方って精神力とか人間力が強いですね。
池ノ辺 いいお姉さんね。
松本 めちゃくちゃいい弟だったんです。いい弟だったから、ちゃんとお姉さんになれていたんだと思います。
池ノ辺 お父さんとはどうでした?
松本 お父さんは、見てるとちょっとダメなお父さんですね。ただ、お父さんのセリフで「早苗は俺のことを馬鹿にしてたんだ」というのがあるのですが、全然そんなことはないんです。姉も弟もお父さんをそんなふうに扱ったことはないし、むしろ尊敬していたからこそ早苗は父と同じ小説家になったんだと思うのです。監督の演出でもそのようにしていました。
池ノ辺 ぐれていない姉弟ですね。
「またね」と言われる現場が嬉しくて
池ノ辺 三木監督とは『青空エール』(2016)以来の6年ぶりですね。
松本 もちろん当時のことも思い出しましたし、こうしてご縁がつながるのは嬉しかったです。前回とは全然違うジャンルで、違う役どころでしたが、成長した姿を見せたいという気持ちがありました。役としても、姉ですから、しっかりしていなきゃなと思って挑みました。
池ノ辺 監督は、何か言ってましたか。
松本 大きくなりましたね、いろんな作品にたくさん出られてますね、という感じで声をかけていただいたのを覚えています。
池ノ辺 6年ぶりの監督の演出は、どうでした?
松本 私については、今回はあまり演出という演出はなかったです。あくまでも、道枝さんを見守る側という立ち位置でしたし、監督は、特に主演のふたりにものすごく思いを込めて演出をされていて、道枝さんはもちろんそのままでも十分に素敵なお芝居だったのですが、もっともっと彼のいいところを引き出そうとして演出をつけられている姿がすごく印象的でしたね。
池ノ辺 監督からの直接の演出というよりは、それを見て、自分がどんなふうに演じたらいいのかがわかってきたということですか。
松本 そうですね。監督は、本人たちがやりやすいように、無理のないようにというのをちゃんと見てくださっていて、ここは自分はこう動きたいです、というようなことも言いやすい現場だったんです。それはすごくよかったです。監督は道枝さんたちに時間をかけたいだろうと思い、私はしっかりしなきゃ、私にあまり時間を取らせてはいけないなというプレッシャーはありました。
池ノ辺 じゃあ、演技をするにあたっても気持ちはお姉さんだったんですね。
松本 撮影や照明などの現場のスタッフさんが、『桜のような僕の恋人』の時と同じ方がいて、そこは見守ってくれているような安心感はありました。「あれ?生き返ったんだね。元気そうだね」と言われたりして(笑)。
池ノ辺 ああ、前の映画で病気で亡くなっていたから(笑)。それはちょっと嬉しいですね。
松本 嬉しかったです。アップした時も、「またね」って言ってくださったりして、すごく嬉しかったです。