Jun 25, 2022 interview

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品

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「‥‥」の意味を的確に表現したい

池ノ辺 私は韓国のドラマや映画が好きでよく観ているのですが、すごく感情の起伏が大きくてそれが心に直接響く感じがあるのですが、今回の監督の演出では抑えた、日本人的というか、行間が感じられるような演技が多く、韓国の俳優さんたちにどういう演出をしたのだろうとそれがとても不思議に思いました。
例えば、脚本で言えば、「生まれてきてくれてありがとう‥‥」というときの、この「‥‥」とか。

是枝 「‥‥」は大事です。

池ノ辺 特に日本人はそれを大事にしているというか、言葉にできないところをそう表現することが多いように思いますが。韓国の人にもそれはわかるのでしょうか。

是枝 いい役者はわかるんじゃないですかね。

池ノ辺 そうですね(笑)。ということは、あえて説明はしなかった?

是枝 韓国の脚本だったらもっと細かく書き込まれている、これは余白がすごく多い脚本だとは言われました。

池ノ辺 そうするとどう演じるかは本人に任せるということですか?

是枝 そうですね、一旦任せて、出てきたものをジャッジするという感じですけど。「‥‥」に関して言えば、ペ・ドゥナさんが最初に脚本を読んだときに、日本語の脚本も欲しいというので渡したんです。

池ノ辺 彼女は日本語がわかるんですか?

是枝 ひらがなくらいはわかるようです。そのときに僕が日本語で書いていた「‥‥」が、韓国語に翻訳したときには無くなっていたらしいんですよ。それでこの「‥‥」はどういうニュアンスを含んでいるのかなど、彼女のすべてのセリフを、通訳を交えて3人でチェックしました。

彼女がいうには、自分が最初に受け取った脚本の言葉が監督らしくないと感じた、その「‥‥」がそういうニュアンスであれば、韓国語はこういうふうに変えた方がいいと。そうやってホテルのロビーで4、5時間かけてチェックし、彼女もこれで本当にスッキリしたと言って、そこの「‥‥」の部分をすごく的確に表現してくれています。

池ノ辺 カメラワークも素晴らしかったです。最初のシーンなどは、これはいかにも韓国らしい感じがありました。カメラマンもかなりこだわる方でしたね。

是枝 撮影のホン・ギョンピョさんは雨風が大好きなので、これは批判というのではなく、風しか見ていない(笑)。ですから現場でも、撮影前に日本語で「風よ吹け。風よ吹け」とずっと言ってるんです。ペ・ドゥナさんがすごくいいお芝居をして「カット」と声をかけた後に、僕のところに来て「すごくいい風だった」と最初に言うのがその一言で(笑)、そのくらい場面の中で、煙とか蒸気とか、風とか雨とか、花びらとか、そういうものが風で動いたり揺れたりしているのが大好きな人なんです。

池ノ辺 今回も風はいっぱい吹いたようですね。