May 16, 2022 interview

李相日監督が語る 『流浪の月』で探り続けた俳優の存在と瞬間

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映画は水のようなもの

池ノ辺 李監督のデビュー作となった日本映画学校の卒業制作『青~chong~』は、PFFグランプリをはじめすごく話題になりましたが、映画学校に入ったときから監督をやろうと?

 いや、プロデューサーとかの方が向いてるなと思ってたんですよ。今はそうは思わないですけど(笑)。本質的な意味で監督とは、なんてよくわからないじゃないですか。どうすればなれるかもわからない。だから目指しようがなかったんです。ただ映画学校で他の学部に興味が持てなかったのでそこに行ったという感じです。

池ノ辺 その後、『フラガール』をはじめ、いろいろな作品を作り続けていく中で作風も変わっていったわけですか?

 どうなんでしょうね?見え方は作品によって違うかもしれないですけど、やりたいことの本質はそう大きく変わってない気がしますけどね、自分のなかでは。

池ノ辺 そうなんですね。監督はやっぱり、生きていく上での不条理、人の怒りや叫びの沸点の表現がうますぎです。それも静かに。今回もやられましたよ。
では、最後に。監督にとって映画って何ですか?

 水みたいなものじゃないですか。『流浪の月』では、あらゆる場面で水を象徴的に映し入れています。それって、更紗と文が一番安心出来る生息区域が水の中だったり、2人の記憶や思いを繋げる物質のようなイメージもあって、常に水が更紗と文に介在しているんですけど、そう考えてみると僕にとっても映画は水みたいなものなのかなって撮影中に思ったりしましたね。

池ノ辺 監督にとって、映画が一番のびのびと生きていける生息区域なわけですね。これからも、そんな場所で撮られた作品を楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎
写真 / 吉田周平

プロフィール
李 相日(LEE Sang-il)

監督

1974年生まれ。大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)へ入学。卒業制作作品『青〜chong〜』(99)がぴあフィルムフェスティバル(PFF)/アワード2000でグランプリを含む4冠に輝く。新藤兼人賞金賞受賞の『BORDER LINE』(02)、村上龍原作にトライした『69 sixty nine』(04)、『スクラップ・ヘブン』(05)を経て、『フラガール』(06)で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。日本映画界を代表する監督としての地位を築く。近年は、『悪人』(10/第34回日本アカデミー賞優秀作品賞)『許されざる者』(13)『怒り』(16/第40回日本アカデミー賞優秀作品賞)など深い人間洞察に満ちた映画を次々と送り出している。

作品情報
映画『流浪の月』

雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後。“傷物にされた被害女児”とその“加害者”という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。しかし、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて‥‥。

監督・脚本:李相日

原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社刊)

出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子 / 趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子 / 柄本明

配給:ギャガ

©2022「流浪の月」製作委員会

公開中

公式サイト gaga.ne.jp/rurounotsuki/

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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