映画は自分の感覚を伝えるツール
池ノ辺 監督になりたいと思ったきっかけはなんですか?
柴山 高校生のとき、レオナルド・ディカプリオが出ていた『マイ・ルーム』って映画を観たことで、映画監督としてやるぞって覚悟を持ちました。それまで、なんとなく映像をやりたいと頭の片隅にはありました。それがミュージックビデオなのか、なんなのか決まっていない状態でした。まだギラギラしていたので、実験映像というか、過激な描写をやっていくことも考えてたんですけど『マイ・ルーム』を観たときに、人の心をちゃんと描く、必要な人に必要な物語を届けられる監督になりたいと思いました。
池ノ辺 それで映画監督になろうと思って、大学へ進学されたんですよね。
柴山 大阪芸大なんですけど、映像学科ではないです。芸術計画学科っていう、いわゆるイベントプロデューサーを育てる学科に入ったんですね。そこが放任主義で好き勝手やっていい学科だったので、僕は独学で映画を作っていました。
池ノ辺 そしたら夢がかなったということですね。チャンスもそうやって到来してきたんですね。
柴山 そうですね。でも基本的にはやっぱり篠原哲雄監督のおかげですね。20歳のときに田中麗奈さん主演の『はつ恋』を観て「この人に弟子入りしたい」と思ったんですよ。そしたら、東京へ出てきて弟子入りさせてもらえたんです、幸運でした。
池ノ辺 風が吹いたんですね。 では、最後に。みなさんに毎回お聞きしているんですが監督にとって映画ってなんですか?
柴山 もともと僕は自分が感じたことを聞いてほしくて、いろんな人に話し倒すタイプなんです。映画は、そのひとつのツールなんです。自分が大事だと思うことを必要としている人がいたら「どうぞお願いします」と言った感覚です、力技で「これを観ろ!」とは思ってはないんです。
池ノ辺 なるほど。映画がひとつのツールだとしたら、別もある。これからもしかしたら、本を書くかもしれないですね。
柴山 そうです。だから料理でもいいです。自分が監督じゃない別の現場へ「豚汁作りに来て」って言われたら、作りにいきたいくらいです。自分が作ってみんなが温まってっていうのをやりたいぐらいなんです。「いい助監督は料理好きのやつが多い。で、そういうやつは、映画監督になっていく」って、篠原監督も言っていました。
池ノ辺 そうなんですね。私も料理が得意なんですよ(笑)。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 小倉靖史
写真 / 吉田周平
監督 / 脚本 / 編集
1979年愛知県生まれ。大阪芸術大学卒業、アンドリーム所属。篠原哲雄監督(『花戦さ』など多数)に師事。2008年『黒振り袖を切る日』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて奨励賞を受賞。2011年『君の好きなうた your song』にて長編映画デビュー。主な監督作は、『流れ星が消えないうちに』(15 / 出演:波瑠、黒島結菜)、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(18 / 出演:岩田剛典、杉咲花)、『TOKYO COIN LAUNDRY』(19 / 出演:片寄涼太、清水くるみ)ほか多数。
【監督作品】
『黒振り袖を着る日』(06) 、『君の好きなうた your song』(11) 、『TOKYO COIN LAUNDRY』(19) 、『たまには、大きな声で』(20)
かつて、世界の秘境を旅するテレビ番組で、一躍脚光を浴びた「ネイチャリング・フォトグラファー」の立花浩樹。バブル崩壊で全てを失ってから15年、事務所の社長に背負わされた借金を返すためだけに生きてきた。必死に働き、完済し、気付けば 40代に。夢も、恋も、何もかも諦めた日々を過ごすだけのある日、母親の友人から写真を撮ってほしいと頼まれた立花は、撮影を通して、忘れていたカメラを構える喜びを思い出す。もう一度やり直そうと、上京して、住み始めたシェアハウスには、同じように人生に敗れた者たちが集まっていた。住人たちと過ごす時間の中で、「心より欲しているものは何か」を見つめなおそうとする。
監督/脚本:柴山健次
原作:伊吹有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫 刊)
出演:玉山鉄二、深川麻衣、音尾琢真、団長安田、高橋和也 ほか
配給:ギャガ
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
2022年4月8日(金) 新宿ピカデリーほか全国順次公開
公式サイト gaga.ne.jp/ima-tsui