自然と湧き上がるような瞬間がある
池ノ辺 映像もすごく綺麗でした。ロケーションも千葉県、長野県、愛知県、長崎県と4都市で行われていますよね。ここで撮りたいっていうのがあったんですか?
柴山 これは、ロケツーリズム協議会という団体があって、そこに参加されている各地域の首長さんたちと顔合わせをして、脚本を照らし合わせながら、一緒にやりませんか?と提案をして、ご協力いただけるところで撮影したんです。ロケツーリズムというのは、たしか『ローマの休日』から生まれた言葉らしく、聖地巡礼といったように、映画やドラマなどをきっかけにした観光誘致を目的にしたものです。
本編のカヌーを漕ぐシーンを撮影した場所は、木で隠れてるんですけど、池に神社がありました。場所に力があったと思います。空気が澄んでいて、ただ単純に美しい森だと思ってカメラを構えましたが、結果的にどこかやっぱり違う空気が映っているなと思いました。
この流れで、ちょっと聞いてもらいたいんですけど‥‥。
池ノ辺 なんでしょう。
柴山 佐治プロデューサーとこの企画をいろんなところへ持っていったんですけど、当時は「タイトルが悪い」と言われて、全然相手にされなかったんです。ですが、コロナ禍になってからは「タイトルが良い」に変わりました。
コロナが蔓延する少し前に、先ほどお話ししたロケツーリズム協議会に参加するようになっていました。コロナ禍になり、ロケ地になった4つの自治体の方々と出会い、その地域の人々との交流でこの映画ができたんです。コロナ禍以前だったら、その人たちと出会うことなく、映画が成立しちゃっていたと思うんです。はっきり言って、新型コロナというものが現れたことで生まれた縁です。この4つの自治体と地域の人々との出会いがなかったら、何も動かなかった映画なんです。このタイミングだからできたんだと思っています。だから、風が吹いたというように必要なものが自然と湧き上がるような瞬間があるんだと感じました。
エンタメには「頑張れ、負けるな」と言ってくるものが多いと思います。人間は1日1日生きるだけでも相当に辛く、頑張ってない人は居ないです。それなのに、テレビや映画からは、いつも「頑張れ」と言う声が聞こえてきます。放っておいてくれ、と。
じゃあ、この物語は「頑張らなくていいんだよ」という映画なのかというと違います。「頑張りたければ頑張りなさい、立ち止まりたければ立ち止まりなさい」と言ってくれてるように感じます。優しい眼差しで見ていてくれる、「あなたの好きにしなさい」と囁いてくれる。そういう存在だと思います。