かつてテレビ番組で人気カメラマンとして脚光を浴びながら、表舞台から姿を消した立花浩樹(玉山鉄二)。もう一度やり直そうと、立花はシェアハウスでの生活をスタートさせる。そこに暮らしていたのは、同じように人生に敗れた者たちだった。仕事も家庭も失ったテレビマン宮川良和(音尾琢真)、将来に悩むリストラされた美容部員の瀬戸寛子(深川麻衣)、復活を望んでいる落ち目の芸人の会田健(団長安田)。合わせて4人それぞれが、ゆったりとした優しい時間のなかで、心が本当に求めるものを見つけ出そうとする。
伊吹有喜の同名小説「今はちょっと、ついてないだけ」を映画化。監督を務めるのは、『流れ星が消えないうちに』『パーフェクトワールド 君といる奇跡』など、卓越した演出力で人物の心情を映し出してきた柴山健次。予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』では、柴山監督に本作ならびに映画への想いをうかがいました。
原作に自分のことが描かれていると思った
池ノ辺 監督、こんにちは。作品とてもよかったです。今の時代にこそ観たいと思える作品で、観終わった後に友人とコーヒーを飲みながら、語りたいなと思いました。大変だったと思いますが、コロナ禍での撮影はどうでしたか?
柴山 大変でした。原作を読んで、映画化を目指したところから5年。本格始動してから2年なので長くかかりましたね。
池ノ辺 原作を読んで、どうして映画化しようって思ったんですか?
柴山 簡単に言うと”自分のことが書かれている”と思える場面がいっぱいあったんです。他の方が撮っても同じようになるだろうと思える本は、自分が撮らなくちゃ、とは思わないんです。この原作は僕じゃなきゃいけないと思える感覚があったので、他の人に撮られたくないと思いました。
僕は20代の頃から「自分にしかできないことをどう画面上で再現していくか」を突き詰めているみたいなところがあります。もちろん独りよがりにならず、お客さんを満足させつつ、どこか味わいとして独自性を出せたらと思っています。
今回の原作は、よくある感動的ないい話として演出することは可能なんです。でも「そうじゃないな」と感じたので、自分の課題を含めて色々挑戦しているっていう感じですね。だから、カメラマンはじめメインスタッフと話し合ったのが、これは作られた世界ではなく「これは私と同じ、地続きの世界だ」と見えるような絵を心がけました。