Apr 01, 2022 interview

中川龍太郎監督が語る 手を加えないことを大事にした『やがて海へと届く』

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池ノ辺 映画監督になりたいと思ったのは、いつなんですか?

中川 この前、実家へ帰った時に小学校のアルバムをみたら、映画監督になりたいって将来の夢のところに書いていたんですよ。『もののけ姫』とか『千と千尋の神隠し』とか、小学生のときにすごい社会現象になっていましたが、その頃はそんなに熱心に観ていたようなイメージは自分では無かったんですけど。

池ノ辺 『千と千尋〜』が小学生の時!お若いんですね(笑)。

中川 それで映画監督という仕事があるんだなと思って、やりたいって思ったんですが、中高時代は、昔の日本映画が好きだったので、松本清張や横溝正史が原作の映画とか、大島渚、寅さんとか、昭和に溢れた作品をいっぱい観ていました。大学時代の友人がすごいヨーロッパの映画好きで、彼が映画を教えてくれた感じですね。そこから本格的に映画を撮ろうと思うようになりました。

池ノ辺 職業として映画監督になろうって思ったのは大学生のときですか?

中川 大学生のときは、映画ばっかり撮っていたので留年したんですよ。そのタイミングで、ちょうど『愛の小さな歴史』っていう作品が東京国際映画祭に通って(第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で上映)。初めて世間にささやかな形で出したんですけど、それを撮るタイミングでさっき言った友人が死んじゃったんですね。その時は寂しい気持ちが一番だったんですけど、彼がいなかったら観てた映画も違ったし、映画をこんなに撮っていたか分からないので、自分が作る作品というのは、彼の影響が直接的にはなくても、自分が作り続けている限りは、その友人の存在が残り続けるんじゃないかなという風にちょっと思ったんです。職業として継続していくという気持ちが芽生えたのは、その時ですね。

池ノ辺 お話を聞いていると、『やがて海へと届く』にも、亡くなったご友人の存在がちゃんと残ってますね。それにしても、『愛の小さな歴史』の後には『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『四月の永い夢』『静かな雨』と、順調に作品を重ねていってますね。

中川 まあ、運がいいですよね。これだけ継続して撮れて、しかも、自分の好きなことだけを撮れることって、なかなかないじゃないですか。

池ノ辺 商業映画になればなるほど、いろいろ制約も出てきますからね。

中川 そういうことが全くと言っていいほどなく、やりたいことだけをやってこれたのは、とにかく運がよかったと思います。

池ノ辺 いろんな人との出会いもそこにあるんでしょうね。

中川 『四月の永い夢』から今回に至るまでアニメのWIT STUDIOやProduction I.Gがお金を出してくださりました。この間は「ジブリパーク」に絡めた愛知県の観光動画をスタジオジブリの制作で作らせていただきました(『風になって、遊ぼう。』特設サイト)。実写の監督なのにアニメーションの方々がプロデューサーになってくれるというのは、ちょっと特殊かもしれませんね。

池ノ辺 そういえば、『やがて海へと届く』には、最初と最後に印象的なアニメーションが登場しますね。

中川 僕が最初にそこでどんなことが起こるかを詩に書いて、それを基にイメージボードを作ってもらいました。アニメーション監督の久保さんと米谷さんとなるべく密に対話しながら作っていきました。

池ノ辺 さっきのアニメーションのプロデューサーと組んで実写映画を作っているというお話もそうですし、監督の作品はもともとアニメーションと親和性が高いと思っていたので、今後は長編アニメーションも作ってほしいですね。さて、いよいよ公開が迫りましたが、観客の皆さんには、この映画をどう観てもらいたいですか?

中川 今、すごく生きやすいって空気ではないじゃないですか。みんな神経質になっているし、それぞれの心が離れていますよね。そういう中で生きていて憂うつだなとか、生きづらいなという人にまず見てもらいたいですね。そこから解放されるような映画になっていると思います。

池ノ辺 なるほど。では最後に、監督にとって映画って何ですか?

中川 それは、黒澤明ですら分からないって言ってるぐらいですから、僕なんかに聞かれても困るんですけど(笑)。ただ、やっぱり映画はその瞬間を残せることですよね。昨日、ちょうどバスター・キートンのサイレント映画を観ていたんですけど、あれに映ってる人は、おそらくもう全員が死んでますよね。でも、その人たちは今、映画を観ているこの瞬間は生きていて、画面の中にいるわけじゃないですか。それだけで映画は尊いですよね。生きていて瞬間を撮っているという意味では、映画は極めて魅力的なんだと思います。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎
写真 / 吉田周平

プロフィール
中川 龍太郎(なかがわ りゅうたろう)

監督・脚本

1990年1月29日、神奈川県生まれ。詩人として活動をはじめ、高校在学中の07年に「詩集 雪に至る都」を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞を最年少で受賞する。慶應義塾大学文学部に進学後、独学で映画制作を開始。監督を務めた『愛の小さな歴史』(15)で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門にノミネート。翌年には『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16)も同部門にてノミネートされ、2年連続の出品を最年少にして果たす。フランスの映画誌カイエ・デュ・シネマから「包み隠さず感情に飛び込む映画」と、その鋭い感性を絶賛される。『四月の永い夢』(18)は世界4大映画祭のひとつ、モスクワ国際映画祭コンペティション部門に選出され、国際映画批評家連盟賞・ロシア映画批評家連盟特別表彰を邦画史上初のダブル受賞。さらに松本穂香を主演に迎えた『わたしは光をにぎっている』(19)がモスクワ国際映画祭に特別招待。『静かな雨』(20)が、釜山国際映画祭正式招待作品として上映され、東京フィルメックスにて観客賞を受賞した。

作品情報
映画『やがて海へと届く』

引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってしまう。あれから5年―真奈はすみれの不在をいまだ受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を感じていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋人・遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう。本当の親友を探す旅の先で、真奈が見つけたものとは‥‥。

監督・脚本:中川龍太郎

原作:彩瀬まる「やがて海へと届く」(講談社文庫)

出演:岸井ゆきの、浜辺美波 / 杉野遥亮、中崎敏 / 鶴田真由、中嶋朋子、新谷ゆづみ / 光石研

配給:ビターズ・エンド

©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

2022年4月1日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

公式サイト bitters.co.jp/yagate/

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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