Apr 01, 2022 interview

中川龍太郎監督が語る 手を加えないことを大事にした『やがて海へと届く』

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岸井ゆきの×浜辺美波――映画、テレビ、舞台を問わず、今もっとも注目を集める2人の初共演で送る彩瀬まるの同名小説を映画化した『やがて海へと届く』。引っ込み思案の真奈(岸井ゆきの)が、どこか影を持つすみれ(浜辺美波)と4月のキャンパスで出逢うことから始まる、かけがえのない親友との多幸感に満ちた日々。しかし、すみれはある日、突然姿を消してしまう。それから5年、すみれの不在を受け入れることが出来ないまま過ごしてきた真奈は、すみれが残したビデオカメラを受け取る。そこに記録されていたのは――。

心を通じ合わせた親友が見せる多彩な表情は、感情を演技に乗せて伝えることに秀でた2人だからこそ生まれた濃密な時間と空間を生み出す。さらに杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、中嶋朋子、新谷ゆづみ、光石研らが脇を固め、2人の世界に広がりをもたらしてくれる。

監督は『四月の永い夢』をはじめ、繊細な台詞と描写、そして透明感のある映像で定評のある中川龍太郎。今回は言葉と映像のみならず、アニメーションも用いて、本作の世界観をいっそう強固に作り上げている。映画大好きな業界の人たちと語り合う予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が、中川監督に映画作りの秘話をうかがいました。

中川龍太郎監督が語る 手を加えないことを大事にした『やがて海へと届く』

岸井ゆきの×浜辺美波――何も手を加えないことで生まれたもの

池ノ辺 監督、『やがて海へと届く』、素晴らしかったです ! 人間の喪失感や希望が見事に映像で表現されていて、号泣しました。彩瀬まるさんの原作のどこに惹かれたんですか?

中川 作品に描かれている根本的な価値観の部分が素晴らしいと思ったのはもちろんなんですが、ある意味で余白が多い作品だから、どこに“核”を持ってくるかで、映画の見え方が非常に変わる作品だと思ったんですね。

池ノ辺 たしかに、どう脚色するかで全く違う映画になりそうですね。

中川 それはある意味で原作を拡大解釈しているんですが、僕も映画の中で真奈とすみれが出逢ったのと同じように、大学1年の4月、入学時の暖かい日差しの中で、友人と出逢っているんです。みんなは、何か楽しいことが始まるんじゃないかっていうムードの中で生きている。僕はそこに非常に違和感があったんです。嫉妬もあったんだと思いますけど。そういう中で僕が友人と出逢ったように、真奈とすみれも出逢ったんじゃないかと。

池ノ辺 自分の体験を2人に重ね合わせることで、映画の“核”が見えたわけですね。いつも、そうやって映画を作ってるんですか?

中川 いろいろお話いただいても、能力的にも、自分と接点が全くないものをやることはできないので。だから、真奈とすみれは、世間への違和感の部分で接続して、お互いの関係が大事になっていったんじゃないか。そこなら自分でも表現できるんじゃないかなと思ったのが最初のとっかかりですね。

中川龍太郎監督が語る 手を加えないことを大事にした『やがて海へと届く』

池ノ辺 岸井ゆきのさんと、浜辺美波さんが素晴らしかったですね。こんな役者さんだったんだ!って思うぐらい夢中になって見ました。お2人をどう演出されたんですか?

中川 浜辺さんには、すみれの履歴書を渡して、彼女が卒業していそうな高校に行ってもらったんです。それで、高校の先生に学校を案内してもらって、学校内を歩く時間の中で、彼女はこういう時間を過ごしてたんじゃないかなって話をしたり、カメラを渡して自身の生活の範囲を撮ってもらったりして、すみれという役を浜辺さんの中に入れてから撮るということをしましたね。岸井さんは、『月の獣』という演劇を観たときに、オファーしようと思ったんです。彼女の生命感に、採れたての野菜みたいな感じを受けたんです。それを、そのまま演ってもらおうと。

池ノ辺 浜辺さんも、無洗浄野菜みたいな瑞々しさがありましたが、あれはどうやって?

中川 彼女の本質の部分をそのまま活かして、何ら手を加えなければ、ああなるはずなんです。手を加えないっていうことを、すごく大事にしましたね。

中川龍太郎監督が語る 手を加えないことを大事にした『やがて海へと届く』